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一条真也
ラグビーと相互扶助
 ラグビーのワールドカップ(W杯)が日本で開催中だ。9月20日から11月2日まで熱戦が繰り広げられている。
 ラグビーという競技は、「ワン・フォア・オール、オール・フォア・ワン」という思想に支えられている。「一人は全員のために、全員は一人のために」と訳されることが多い。
 由来は古代ゲルマン人の言い伝えなど諸説あるそうだ。19世紀半ばのアレクサンドル・デュマ著『三銃士』で、青年ダルタニアンと意気投合した三銃士が結束を誓う言葉として出てくるのが有名。
 同時期の空想的社会主義者、エティエンヌ・カベーのベストセラー『イカリア旅行記』の表紙にも登場するが、この言葉は、相互扶助の思想として社会にも影響を与えた。
 ロシアのヒョードル・クロポトキンは一般にはアナキストとして知られているが、革命家活動を終えたのち、亡命先のイギリスで1902年に『相互扶助論』を書いた。
 クロポトキンによれば、きわめて長い進化の行程のあいだに、人類の社会には互いに助け合うという本能が発達してきた。近所に火事があったとき、人々が手桶に水を汲んでその家に駈けつけるのは、隣人しかも見知らぬ人に対する愛からではない。愛よりは漠然としているが、しかしはるかに広い互助の本能が人間を動かすというのである。
 「相互扶助」という考え方は、多くの人々が少額を出し合って万一に備える保険業や、わが冠婚葬祭互助会業の根本理念にもなっている。そもそも互助会の「互助」とは「相互扶助」を縮めたものなのである。そして、時代は「互助会から互助社会へ」と向かっている。
 互助社会とは、共生社会であり、思いやり社会でもある。ラグビーチームのような社会が本当にこの地球上に実現したら、これ以上に素晴らしいことはない。