2019
10
株式会社サンレー

 代表取締役社長

  佐久間庸和

計画の成就は不屈不撓の一心にあり

   ただ想え、気高く、強く、一筋に

●中村天風の言葉
 9月に開催された営業責任者会議の社長訓話で、わたしは「新しい計画の成就はただ不屈不撓(ふとう)の一心にあり。さらばひたむきにただ想え、気高く、強く、一筋に」という言葉を紹介しました。
 これは、インドでヨガの修行をして悟りをひらき、日本でその思想と実践に基づく生き方を伝えた哲人・中村天風の言葉です。天風は、生涯数え切れないほどの多くの講演で「心」の持つ力の偉大さそして信念の大事さを説き続けました。
 天風はもともと銀行の頭取をはじめ多くの会社を経営する事業家でしたが、突如、世の人々を幸福にするために信念の大事さを訴えたいと思い立ち、朝から晩まで路上で演説するという生活をはじめました。銀行の頭取をしていた人間が急に草履ばきになって、脚絆をつけて、焼きおむすびを持って、大道講演すれば、周囲の人々は仰天します。当然ながら反対します。天風の尊敬する日蓮宗の田中智学なども「駄目だから、お止しなさい」と言いました。

●中村天風から稲盛和夫へ
 しかし天風は、「本当の気持ちで人のためを思ってする仕事が、駄目とはいかなる理由か。人によいことを奨め、人を幸福にすることがなぜ駄目なのか。否、駄目とか、駄目でないとかは考えない。ただ人を幸福にすれば良いのだ。それが自分に出来ないはずがないんだ!」という気持ちでこれを始めました。
 その結果、彼の幸福哲学は松下幸之助やロックフェラー3世など内外の実業家をはじめとして幾多の人々に影響を与え、今も彼の決して安いとはいえない多くの講演録はロングセラーとして読まれ続けています。
 天風の影響を強く受けた経営者に、稲盛和夫氏がいます。1932年、鹿児島生まれの稲盛氏は、現代日本を代表する経営者として知られています。京セラ名誉会長、KDDI最高顧問、日本航空(JAL)名誉顧問を務め、1984年には稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった人々を顕彰しています。2012年には、第2回「孔子文化賞」を受賞されています。

●JAL社員への言葉
 その稲盛氏は、日本航空の会長に就任した際、すべての従業員に向けて、「新しき計画の成就は、ただ不屈不撓の一心にあり。さらばひたむきにただ想え、気高く、強く、一筋に」という天風の言葉を紹介しました。
 これは、かつて成長を続けていた京セラにおいて掲げたスローガンでもありました。稲盛氏は、この言葉をあらためて、日本航空の全社員に向けて紹介したのです。
 この天風の言葉の中でも大切なのは、「気高く」という言葉であるとして、稲盛氏は最新の著書『心。』(サンマーク出版)で、「気高い心を根幹にもっているからこそ、ひたすらに強く揺るぎのない『思い』をもつことができる。何が何でも成し遂げるという強烈な思い、どんな苦境にも負けずに進もうという揺るぎない意志が、事を貫徹するためには必要です。そういう思いのもと、かかわる人たちが一丸となって最大限の努力をなしたときに、事は成就する」と述べています。

●心が現実をつくる
 現在ベストセラーとなっている同書のプロローグの冒頭を、著者は「人生のすべては自分の心が映し出す」として、以下のように書きだしています。
「これまで歩んできた80余年の人生を振り返るとき、そして半世紀を超える経営者としての歩みを思い返すとき、いま多くの人たちに伝え、残していきたいのは、おおむね1つのことしかありません。それは、『心がすべてを決めている』ということです」
 続けて、著者は以下のように述べています。
「人生で起こってくるあらゆる出来事は、自らの心が引き寄せたものです。それらはまるで映写機がスクリーンに映像を映し出すように、心が描いたものを忠実に再現しています。それは、この世を動かしている絶対法則であり、あらゆることに例外なく働く真理なのです。したがって、心に何を描くのか。どんな思いをもち、どんな姿勢で生きるのか。それこそが、人生を決めるもっとも大切なファクターとなる。これは机上の精神論でもなければ、単なる人生訓でもありません。心が現実をつくり、動かしていくのです」

●心がすべてを決めている
 稲盛氏の考えは、いわゆる「引き寄せの法則」と呼ばれるもので、ナポレオン・ヒルの「思考は現実化する」という考え方にも通じます。日本の「生長の家」に影響を与えたアメリカの宗教思想運動である「ニューソート」がルーツだとされていますが、京セラとKDDIという2つの世界的大企業を立ち上げ、JALを〝奇跡の再生〟へと導いた、当代随一の経営者が喝破すると異常なまでの説得力があります。
 稲盛氏は「心がすべてを決めている」と断言します。人生で起こってくるあらゆる出来事は自らの心が引き寄せたものであり、すべては心が描いたものの反映であると断言します。それを、この世を動かす絶対法則だというのです。ですから、どんな心で生きるか、心に何を抱くかが、人生を大きく変えるのです。それは人生に幸せをもたらす鍵であるとともに、物事を成功へと導く極意でもあると訴えます。
 つねに経営の第一線を歩きつづけた著者が、心のありようと、人としてのあるべき姿に、わたしも経営者として深い感銘を受けました。
 みなさんは、それぞれ高い目標があり、果たすべき計画があります。ぜひ、「気高く、強く、一筋に」の精神で頑張りましょう!

 ただ想え 気高く強く一筋に
       天下布礼の日々の務めを  庸軒