第16回
一条真也
「グリーフケアの時代」

 

 サンレーでは、数年来、グリーフケアのサポート活動に力を入れてきました。そして昨春から、わたしは上智大学グリーフケア研究所の客員教授に就任しました。

「グリーフケア」という言葉を知らない人のために簡単に説明しますと、「悲嘆からの回復」ということになるでしょうか。

 「悲嘆」といっても、さまざまな種類がありえます。上智大学グリーフケア研究所の前所長である高木慶子氏は、著書『悲しんでいい』で「悲嘆を引き起こす7つの原因」というものを紹介しておられます。

1.愛する人の喪失――死、離別(失恋、裏切り、失踪)
2.所有物の喪失――財産、仕事、職場、ペットなど
3.環境の喪失――転居、転勤、転校、地域社会
4.役割の喪失――地位、役割(子どもの自立、夫の退職、家族のなかでの役割)
5.自尊心の喪失――名誉、名声、プライバシーが傷つくこと
6.身体的喪失――病気による衰弱、老化現象、子宮・卵巣・乳房・頭髪などの喪失
7.社会生活における安全・安心の喪失

 わたしたちの人生とは喪失の連続であり、それによって多くの悲嘆が生まれています。

 東日本大震災の被災者の人々は、いくつものものを喪失した、いわば多重喪失者でした。家を失い、さまざまな財産を失い、仕事を失い、家族や友人を失ってしまいました。

 しかし、数ある悲嘆の中でも、愛する人の喪失による悲嘆の大きさは計り知れないといえるでしょう。グリーフケアとは、この大きな悲しみを少しでも小さくするためにあります。

 仏教では「生老病死」を4つの苦悩としました。わたしは、人間にはもう一つ大きな苦悩があると思っています。それは愛する人を亡くすこと。老病死の苦悩は自分自身の問題ですが、愛する者を失うことはそれらに勝る大きな苦しみではないでしょうか。

 配偶者を亡くした人は、立ち直るのに3年はかかるといわれています。幼い子どもを亡くした人は10年かかるとされています。こんな苦しみが、この世に他にあるでしょうか。

 日々、涙を流して悲しむ方々を見るうちに、わたしは「なんとか、この方たちの心を少しでも軽くすることはできないか」と思ったのです。そして大切な方を失い、悲しみの極限で苦しむ方の心が少しでも軽くなるようお手伝いすることが、わが社の使命ではないかと思うようになったのです。

 そして、2010年の6月、わが社では念願であったグリーフケア・サポートのための会員制組織をスタートしました。愛する方を亡くされた、ご遺族の方々のための会です。 「月あかりの会」という名前にしました。 この会の名前は「月あかりの会」にしました。

 わたしは月を見ていると、亡くなった人々の面影が心に浮かんできます。"釈尊"ことブッダは、満月の夜に生まれ、悟りを開き、亡くなったとされています。

 月あかり、すなわち月光とは「慈悲」そのものであるという気がしてなりません。

 紫雲閣グループでは、愛する人を亡くした人に対して何ができるのか、そんな言葉をかければよいのかを全社員が毎日考えています。

 でも、必要以上に言葉に頼ってはなりません。もちろん、通夜や告別式で、悲しんでおられるお客様に慰めの言葉をかけることは必要なことです。しかし、自分の考えを押し付けたり、相手がそっとしておいてほしいときに強引に言葉をかけるのは慎むべきです。

 ただ、黙って側にいてさしあげるだけのことがいいこともある。共感して、一緒に泣くこともある。微笑むことがいいこともある。

 死別の悲しみによって絶望の淵にある方の心は暗闇の中にあります。ぜひ、慈しみに満ちた月の光のようなサービスで悲しみが軽くなるお手伝いをし、亡くなった方のぶんまで生きてゆくという覚悟を支える太陽の光のようなサービスを心掛けたいと願っています。