2018
12
株式会社サンレー

 代表取締役社長

  佐久間庸和

月の光と太陽の光を届ける

   グリーフケア・サポートを!

●グリーフケアとは何か
 今年の4月から、わたしは上智大学グリーフケア研究所の客員教授に就任しました。その講義を11月に行いました。
 「グリーフケア」という言葉に触れる機会が多くなりました。わが社の本社は「小倉紫雲閣」の上にあります。小倉紫雲閣では毎日のように多くの葬儀が行われています。
 そのような場所にいるわけですから、わたしも毎日のように、多くの「愛する人を亡くした人」たちにお会いしているわけです。その中には、涙が止まらない方や、気の毒なほど気落ちしている方、健康を害するくらいに悲しみにひたっている方もたくさんおられます。亡くなった人の後を追って自殺しかねないと心配してしまう方もいます。
 わが社では、数年来、グリーフケアのサポート活動に力を入れてきました。「グリーフケア」という言葉を知らない人のために簡単に説明すると、「悲嘆からの回復」ということになるでしょうか。

●悲嘆を引き起こす原因
 「悲嘆」といっても、さまざまな種類がありえます。上智大学グリーフケア研究所の前所長である髙木慶子氏は、著書『悲しんでいい』で「悲嘆を引き起こす7つの原因」というものを紹介しておられます。
1.愛する人の喪失――死、離別(失恋、裏切り、失踪)
2.所有物の喪失――財産、仕事、職場、ペットなど
3.環境の喪失――転居、転勤、転校、地域社会
4.役割の喪失――地位、役割(子どもの自立、夫の退職、家族のなかでの役割)
5.自尊心の喪失――名誉、名声、プライバシーが傷つくこと
6.身体的喪失――病気による衰弱、老化現象、子宮・卵巣・乳房・頭髪などの喪失
7.社会生活における安全・安心の喪失

●「月あかりの会」の発足
 わたしたちの人生とは喪失の連続であり、それによって多くの悲嘆が生まれています。
 東日本大震災の被災者の人々は、いくつものものを喪失した、いわば多重喪失者でした。家を失い、さまざまな財産を失い、仕事を失い、家族や友人を失ってしまいました。しかし、数ある悲嘆の中でも、愛する人の喪失による悲嘆の大きさは計り知れないといえるでしょう。グリーフケアとは、この大きな悲しみを少しでも小さくするためにあります。
 2010年の6月、わが社では念願であったグリーフケア・サポートのための会員制組織をスタートしました。愛する方を亡くされた、ご遺族の方々のための会です。
 「月あかりの会」という名前にしました。
 わたしは、2010年6月の「月の法宴」での主催者挨拶で、「月あかりの会」を発足させていただくことを宣言しました。そこでは、なぜ「月あかり」という名前なのかというお話もさせていただきました。

●人間の一番の苦悩とは
 わたしは月を見ていると、亡くなった人々のなつかしい面影が心に浮かんできます。
 〝釈尊〟ことブッダは、満月の夜に生まれ、悟りを開き、亡くなったとされています。月あかり、すなわち月光とは「慈悲」そのものであるという気がしてなりません。
 そのブッダは、「生老病死」を4つの苦悩としました。わたしは、人間にはもう1つ大きな苦悩があると思っています。それは、愛する人を亡くすこと。
 老病死の苦悩は自分自身の問題ですが、愛する者を失うことはそれらに勝る大きな苦しみではないでしょうか。
 配偶者を亡くした人は、立ち直るのに3年はかかるといわれています。幼い子どもを亡くした人は10年かかるとされています。こんな苦しみが、この世に他にあるでしょうか。

●生き残るという苦悩
 一般に「生老病死」のうち、「生」はもはや苦悩ではないと思われています。しかし、ブッダが本当に「生」の苦悩としたかったのは、誕生という「生まれること」ではなくて、愛する人を亡くして「生き残ること」ではなかったかと、わたしは思うのです。
 ブッダが苦悩と認定したものを、おまえごときが癒せるはずなどないではないかという声が聞こえてきそうです。たしかに、そうかもしれません。しかし、日々、涙を流して悲しむ方々を見るうちに、わたしは「なんとか、この方たちの心を少しでも軽くすることはできないか」と思ったのです。
 大切な方を失い、悲しみの極限で苦しむ方の心が少しでも軽くなるようお手伝いをすることが、わが社の使命ではないかと思うようになったのです。

●月の光・太陽の光
 紫雲閣グループでは、愛する人を亡くした人に対して何ができるのか、そんな言葉をかければよいのかを全社員が毎日考えています。でも、必要以上に言葉に頼ってはなりません。もちろん、通夜や告別式で、悲しんでおられるお客様に慰めの言葉をかけることは必要なことです。
 しかし、自分の考えを押し付けたり、相手がそっとしておいてほしいときに強引に言葉をかけるのは慎むべきです。ただ、黙って側にいてさしあげるだけのことがいいこともあります。共感して一緒に泣くこともあります。微笑むことがいいこともあります。
 死別の悲しみによって絶望の淵にある方の心は暗闇の中にあります。
 ぜひ、慈しみに満ちた月の光のようなグリーフケア・サポートで悲しみが軽くなるお手伝いをし、さらには亡くなった方のぶんまで生きてゆくという覚悟を支える太陽の光のようなホスピタリティ・サービスを心掛けたいものです。

 月あかり悲しむ人に降り注ぎ
       暗闇照らす朝日輝く  庸軒