第5回
一条真也
「クリスマスの秘密」

 

 12月といえば、クリスマス。いま、街中はクリスマス一色である。
 現在は前日のクリスマス・イヴに押されているとはいえ、イエス・キリストの誕生日として年間最大のイベントとされる。世界中の家族や仲間や恋人同士がこの日を祝う。

 しかし、この日はイエスの本当の誕生日ではない。3世紀までのキリスト教徒は、12月25日をクリスマスとして祝ってはいなかった。彼らは、後にキリスト教会の重要な祝日となるこの日に、集まって礼拝することもなく、キリストの誕生を話題にすることもなく、他の日と何の変わりもなく静かに過ごしていた。キリスト教にとってこの日が特別な意味を持つようになるのは、4世紀初頭以降のことである。
 これに対して、同じ頃、まだキリスト教を受け入れていなかったローマ帝国では、12月25日は太陽崇拝の特別な祝日とされていた。当時、太陽を崇拝するミトラス教が普及しており、その主祭日が「冬至」に当たる12月25日に祝われていたのである。

 また、真冬のクリスマスとは死者の祭であった。
 人類学者のクロード・レヴィ=ストロースと中沢新一氏の共著『サンタクロースの秘密』(せりか書房)に詳しいが、冬至の時期、太陽はもっとも力を弱め、人の世界から遠くに去る。世界はすべてのバランスを失っていく。そのとき、生者と死者の力関係のバランスの崩壊を利用して、生者の世界には、おびただしい死者の霊が出現するのだ。
 生者はそこで、訪れた死者の霊を、心を込めてもてなし、贈り物を与えて、彼らが喜んで立ち去るようにしてあげる。その死者の霊の代理を生者の世界でつとめたのが子どもだった。子どもとは霊界に近い存在だったからだ。大人たちは、子どもたちを通じて死者への贈り物をしなければならなかった。そこで、サンタクロースの存在が必要となり、それは「遠方からやって来るやさしい老人」でなければならなかった。子どもに贈り物を渡す仲間には、同じく霊界に近い存在、すなわち老人の存在が必要となるわけだ。

 昔のクリスマスでは、大人は子どもにお供物やお菓子を贈り、そのお返しに、子どもは大人たちの社会に対して来年の豊穣を約束した。現在、大人はサンタクロースというファンタジーを通して、子どもにオモチャやお菓子のプレゼントをする。そしてそのお返しに、子どもは大人に幸福な感情を贈る。クリスマスにおいて、生者と死者の霊の間には、贈り物を通して霊的なコミュニケーションが発生しているのである。

 このように日本のお盆にも似て、クリスマスとは死者をもてなす祭だったのである。
 というわけで、今は亡き人を想って、メリー・クリスマス!