2018
11
株式会社サンレー
代表取締役社長
佐久間庸和
日日是好日(にちにちこれこうじつ)
何事も陽にとらえて前進しよう!
●『日日是好日』
『日日是好日(にちにちこれこうじつ)』森下典子著(新潮文庫)という本をご存知ですか。「『お茶』が教えてくれた15のしあわせ」というサブタイトルがついています。
著者は、お茶を習い始めて25年。就職につまずき、いつも不安で自分の居場所を探し続けていました。失恋、父の死という深い悲しみのなかで、気がつけば、そばにいつも「お茶」がありました。
お茶の世界はがんじがらめの決まりごとだらけですが、その向こうには「自由」がありました。「ここにいるだけでよい」という心の安息を得て、雨が降れば、その匂いを嗅ぎ、雨の一粒一粒を聴く。めぐる季節を五感で味わう歓びとともに、著者は「いま、生きている!」という感動をおぼえるのでした。
この本は茶道の最高の入門書であり、岡倉天心の名著『茶の本』の現代版であり、さらには高度情報社会を生きる日本人のための優れた幸福論であると思いました。
●「こころ」と「かたち」
この本は現代の『茶の本』である前に、『水の本』という本質を持っています。雨、海、瀧、涙、湯、茶などが重要な場面で登場しますが、これらはすべて「水」からできています。地球は「水の惑星」であり、人間の大部分は水分でできています。「水」とは「生」そのものなのです。
水は形がなく不安定です。それを容れるものがコップです。水とコップの関係は、茶と器の関係でもあります。水と茶は「こころ」です。「こころ」も形がなくて不安定です。ですから、「かたち」に容れる必要があるのです。その「かたち」には別名があります。「儀式」です。茶道とはまさに儀式文化であり、「かたち」の文化です。人間の「こころ」は、どこの国でも、いつの時代でも不安定です。だから、安定するための「かたち」すなわち儀式が必要なのです。
●聖人たちの共通思想とは
そこで大切なことは先に「かたち」があって、そこに後から「こころ」が入るということ。逆ではダメです。「かったい」があうから、「こころ」が収まるのです。日本人は、もっと結婚式や葬儀という「かたち」としての儀式を信じるべきではないでしょうか。
儀式の重要性を説いた人物に孔子がいます。
孔子といえば、以前わたしは『世界をつくった八大聖人』(PHP新書)という本を書きました。その中で、ブッダ、孔子、老子、ソクラテス、モーセ、イエス、ムハンマド、聖徳太子といった偉大な聖人たちを「人類の教師たち」と名づけました。
わたしは彼らの生涯や教えを紹介するとともに、8人の共通思想のようなものを示しました。その最大のものは「水を大切にすること」、次が「思いやりを大切にすること」でした。「思いやり」というのは、他者に心をかけること、キリスト教の「愛」であり、仏教の「慈悲」であり、儒教の「仁」です。
●「苦境」を楽しむ生き方
儒教といえば、「儒」の漢字は「濡」という字と同じ語源です。孔子の母親は雨乞いのシャーマンでしたが、「濡」とは雨で乾いた地面に潤いを与えること、「儒」とは思いやりで乾いた心に潤いを与えることです。
茶道には禅宗の影響が強いとされていますが、『日日是好日』で森下氏は「雨の日は、雨を聴く。雪の日は、雪を見る。夏には、暑さを、冬には、身の切れるような寒さを味わう・・・どんな日も、その日を思う存分味わう」と書き、お茶とは、そういう「生き方」なのだと言います。そうやって生きれば、人間はたとえ、まわりが「苦境」と呼ぶような事態に遭遇したとしても、その状況を楽しんで生きていけるかもしれないというのです。
雨が降ると、「今日は、お天気が悪い」と言いますが、本当は「悪い天気」など存在しません。雨の日を味わうように、他の日を味わうことができれば、どんな日も「いい日」になる。それが「日日是好日」ということ。
●何事も陽にとらえる
わたしたちの仕事も「日日是好日」で行こうではありませんか。世の中の風潮で儀式の軽視が進んでいるとか、参列者の数が減っているとか、単価が下がっているとか、競合店がオープンしたとかリニューアルしたとか、台風だとか大雨だとか・・・・・・うまくゆかない理由を挙げればキリがありません。それを「苦境」と思わずに、「だからこそ、チャンスだ」と前向きにとらえて、楽しみながら仕事をしていただきたい。愚痴は言わずに、何事も陽にとらえていきましょう!
そうすれば、きっと道は拓けるはずです。
孔子は「礼」を説きました。「礼」は日本において、特に茶道において、「もてなし」の文化を生みました。
茶で「もてなす」とは何か。
それは、最高のおいしいお茶を提供し、最高の礼儀をつくして相手を尊重し、心から最高の敬意を表することに尽きます。そして、そこに「一期一会」という究極の人間関係が浮かび上がってきます。
人との出会いを一生に一度のものと思い、相手に対し最善を尽くしながら茶を点てることを「一期一会」と最初に詠んだのは、利休の弟子である山上宗二です。
「一期一会」は、利休が生み出した「和敬静寂」の精神とともに、日本が世界に誇るべきハートフル・フィロソフィーであると言えるのではないでしょうか。
この「一期一会」の精神は、営業においても施行サービスにおいても重要です。要するに、お客様との御縁をいただけたことに心から感謝し、真剣勝負の心境でお客様のお役に立つべく接するということです。わたしたちは、「日日是好日」と「一期一会」の精神を忘れずに前進したいものです。
雨の日は雨の音聴け
何事も陽にとらへて前に進まん 庸軒
『日日是好日(にちにちこれこうじつ)』森下典子著(新潮文庫)という本をご存知ですか。「『お茶』が教えてくれた15のしあわせ」というサブタイトルがついています。
著者は、お茶を習い始めて25年。就職につまずき、いつも不安で自分の居場所を探し続けていました。失恋、父の死という深い悲しみのなかで、気がつけば、そばにいつも「お茶」がありました。
お茶の世界はがんじがらめの決まりごとだらけですが、その向こうには「自由」がありました。「ここにいるだけでよい」という心の安息を得て、雨が降れば、その匂いを嗅ぎ、雨の一粒一粒を聴く。めぐる季節を五感で味わう歓びとともに、著者は「いま、生きている!」という感動をおぼえるのでした。
この本は茶道の最高の入門書であり、岡倉天心の名著『茶の本』の現代版であり、さらには高度情報社会を生きる日本人のための優れた幸福論であると思いました。
●「こころ」と「かたち」
この本は現代の『茶の本』である前に、『水の本』という本質を持っています。雨、海、瀧、涙、湯、茶などが重要な場面で登場しますが、これらはすべて「水」からできています。地球は「水の惑星」であり、人間の大部分は水分でできています。「水」とは「生」そのものなのです。
水は形がなく不安定です。それを容れるものがコップです。水とコップの関係は、茶と器の関係でもあります。水と茶は「こころ」です。「こころ」も形がなくて不安定です。ですから、「かたち」に容れる必要があるのです。その「かたち」には別名があります。「儀式」です。茶道とはまさに儀式文化であり、「かたち」の文化です。人間の「こころ」は、どこの国でも、いつの時代でも不安定です。だから、安定するための「かたち」すなわち儀式が必要なのです。
●聖人たちの共通思想とは
そこで大切なことは先に「かたち」があって、そこに後から「こころ」が入るということ。逆ではダメです。「かったい」があうから、「こころ」が収まるのです。日本人は、もっと結婚式や葬儀という「かたち」としての儀式を信じるべきではないでしょうか。
儀式の重要性を説いた人物に孔子がいます。
孔子といえば、以前わたしは『世界をつくった八大聖人』(PHP新書)という本を書きました。その中で、ブッダ、孔子、老子、ソクラテス、モーセ、イエス、ムハンマド、聖徳太子といった偉大な聖人たちを「人類の教師たち」と名づけました。
わたしは彼らの生涯や教えを紹介するとともに、8人の共通思想のようなものを示しました。その最大のものは「水を大切にすること」、次が「思いやりを大切にすること」でした。「思いやり」というのは、他者に心をかけること、キリスト教の「愛」であり、仏教の「慈悲」であり、儒教の「仁」です。
●「苦境」を楽しむ生き方
儒教といえば、「儒」の漢字は「濡」という字と同じ語源です。孔子の母親は雨乞いのシャーマンでしたが、「濡」とは雨で乾いた地面に潤いを与えること、「儒」とは思いやりで乾いた心に潤いを与えることです。
茶道には禅宗の影響が強いとされていますが、『日日是好日』で森下氏は「雨の日は、雨を聴く。雪の日は、雪を見る。夏には、暑さを、冬には、身の切れるような寒さを味わう・・・どんな日も、その日を思う存分味わう」と書き、お茶とは、そういう「生き方」なのだと言います。そうやって生きれば、人間はたとえ、まわりが「苦境」と呼ぶような事態に遭遇したとしても、その状況を楽しんで生きていけるかもしれないというのです。
雨が降ると、「今日は、お天気が悪い」と言いますが、本当は「悪い天気」など存在しません。雨の日を味わうように、他の日を味わうことができれば、どんな日も「いい日」になる。それが「日日是好日」ということ。
●何事も陽にとらえる
わたしたちの仕事も「日日是好日」で行こうではありませんか。世の中の風潮で儀式の軽視が進んでいるとか、参列者の数が減っているとか、単価が下がっているとか、競合店がオープンしたとかリニューアルしたとか、台風だとか大雨だとか・・・・・・うまくゆかない理由を挙げればキリがありません。それを「苦境」と思わずに、「だからこそ、チャンスだ」と前向きにとらえて、楽しみながら仕事をしていただきたい。愚痴は言わずに、何事も陽にとらえていきましょう!
そうすれば、きっと道は拓けるはずです。
孔子は「礼」を説きました。「礼」は日本において、特に茶道において、「もてなし」の文化を生みました。
茶で「もてなす」とは何か。
それは、最高のおいしいお茶を提供し、最高の礼儀をつくして相手を尊重し、心から最高の敬意を表することに尽きます。そして、そこに「一期一会」という究極の人間関係が浮かび上がってきます。
人との出会いを一生に一度のものと思い、相手に対し最善を尽くしながら茶を点てることを「一期一会」と最初に詠んだのは、利休の弟子である山上宗二です。
「一期一会」は、利休が生み出した「和敬静寂」の精神とともに、日本が世界に誇るべきハートフル・フィロソフィーであると言えるのではないでしょうか。
この「一期一会」の精神は、営業においても施行サービスにおいても重要です。要するに、お客様との御縁をいただけたことに心から感謝し、真剣勝負の心境でお客様のお役に立つべく接するということです。わたしたちは、「日日是好日」と「一期一会」の精神を忘れずに前進したいものです。
雨の日は雨の音聴け
何事も陽にとらへて前に進まん 庸軒