111
一条真也
「 文庫化のクリスマス・プレゼント」

 

 今年のクリスマスは嬉しいプレゼントがあった。拙著『唯葬論』が文庫化されたのである。宗教哲学者で、上智大グリーフケア研究所特任教授・京都大名誉教授でもある鎌田東二先生のお力添えによるものだ。
  『唯葬論』の単行本は2015年7月に三五館から出版された。複数の新聞や雑誌の書評に取り上げられ、アマゾンの哲学書ランキングで1位になるなど、かなりの反響を得た。ところが、17年10月に版元が倒産するという想定外の事態が発生した。
 わたしの執筆活動の集大成と考えていた『唯葬論』だが、同じ版元から刊行された17冊の拙著とともに絶版になることが決まり、わたしは意気消沈していた。それを知った鎌田先生が仏教書の出版で知られるサンガの編集部に掛けあって下さり、このたびサンガ文庫入りすることになった。感謝の念でいっぱいである。
 鎌田先生は文庫の帯にも「弔う人間=ホモ・フューネラルについて、宇宙論から文明論・他界論までを含む壮大無比なる探究の末に、前代未聞の葬儀哲学の書が誕生した!」という過分な推薦文を寄せて下さった。
 もう1人、東京大医学部附属病院循環器内科助教の稲葉俊郎氏も、「人類や自然の営みをすべて俯瞰的に包含したとんでもない本です。世界広しといえども、一条さんしか書けません。時代を超えて読み継がれていくものです」との、これまた過分な推薦文を寄せて下さった。
 わたしは人類の文明も文化も、その発展の根底には「死者への想い」があったと考えている。そのことは、古代のピラミッドや古墳を見てもよく理解できよう。世の中には「唯物論」「唯心論」をはじめ、岸田秀氏が唱えた「唯幻論」、養老孟司氏が唱えた「唯脳論」などがあるが、わたしは「唯葬論」というものを提唱した。
  結局、「唯○論」というのは、すべて「世界をどう見るか」という世界観、「人間とは何か」という人間観に関わっている。「葬」を基軸に観れば、すべての謎は解ける気がする。