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一条真也
「愛で死を乗り越えた麻央さん」
がん闘病中だった小林麻央さんが34歳の若さで亡くなられた。心よりご冥福をお祈りいたします。
麻央さんは、闘病の様子や心情、家族への思いなどをずっとブログに綴ってきた。多くの読者の共感を呼んだが、実は、わたしの妻も毎日、麻央さんのブログを読み、その回復を願っていた。
妻から麻央さんの容体についてよく話を聞いていたので、わたしも信じられない気持ちでいっぱいである。まだ幼いお子さんを2人残して逝かれる心情を思うと、たまらない。
最後は在宅医療を選択され、愛する家族に囲まれて「そのとき」を迎えられた麻央さんの生き様は多くの人々に勇気を与えた。これほど「覚悟」を持って生き切った方はなかなかいないと思う。その生き方は、確実に日本人の死生観に影響を与えた。
また麻央さんは、ブログの持つ豊かな可能性をも示してくれた。これほど個人の病状を多くの日本人が気遣ったことがあっただろうか。みんなが病状を気にし、回復を願った。
自宅で家族に囲まれた麻央さんは最愛の海老蔵さんに「愛してる」と言って旅立たれたという。麻央さんが最期まで勇気をもって死に向き合うことができたのは、愛する家族の存在があったからだろう。
モラリストとされたフランスの公爵ラ・ロシュフーコーは「太陽と死は直視できない」と言った。太陽と死は直接見ることができないのだ。
でも、間接的なら見ることはできる。そう、サングラスをかければ太陽を見られる。そして、死にもサングラスのような存在があると思う。それは「愛」だ。「死」という直視できないものを見るためのサングラスこそ「愛」ではないだろうか。
人は心から愛するものがあって初めて、自らの死を乗り越え、永遠の時間の中で生きることができる。麻央さんも、「家族への愛」というサングラスをかけることによって、自身の死を正面から見つめることができたように思えてならない。合掌。