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一条真也
「カラオケで無縁社会を乗り越えろ!」

 

 今年一番驚いたのは、大手のカラオケボックス・チェーンが大量閉店したニュースであった。カラオケ市場そのものは微増というが、高齢者が中心で若者はカラオケ離れだとか。さらには若者のアルコール離れは顕著で、居酒屋業界も深刻だという。
 わたしの周囲にいるのは、酒とカラオケが好きでたまらないという連中ばかりなので、意表をつかれた。
 結局は社会が「人間嫌い」化しているということだろうが、酒も飲まず、カラオケも歌わずにスマホでゲームばかりして、何が楽しいのか?
 わたしには、東京出張の際に必ず寄る止まり木がある。常宿のある赤坂見附の駅のすぐ近くの「カラオケスナックDAN」という店だ。
 場所は都心の超一等地だが、ひとたび扉を開けると、いきなり昭和のスナックが登場する。各地の温泉街でよく見るスナックそのものである。なんと、天井にはミラーボールまである。DANは異次元空間なのだ。
 この異次元空間は、わたしの疲れた心を癒してくれる。宝石商を営む、どこか謎めいた上品なママと、「氷雨」を歌っていた佳山明生によく似たマスターがいい感じだ。
 DANのお客さんはとにかく歌が上手で、音痴の人に会ったことがない。レコード会社、ラジオ、テレビ、広告業界の関係者も多いようだ。カラオケの順位と偏差値が出る機械を設置しているが、数千人中で1位というようなツワモノが続出する。
 ちなみに、わたしも1位を連発するほうで、特に北島三郎の「まつり」と矢沢永吉の「アイ・ラブ・ユー、OK」は無敵で、偏差値99を出す。 DANでは、隣り合ったお客さん同士が仲良く話しはじめる。誰かがカラオケを歌うと、全員で合唱する。誰かがカラオケで1位を取ると、全員にビールを奢ったりする。
 そう、「袖すり合うも多生の縁」という善き心が生きている。昔、「歌声喫茶」というものがあったそうだが、DANはまるで「歌声スナック」だ。カラオケで無縁社会を乗り越えろ!