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一条真也
「迷惑について考える映画『家族はつらいよ』」
一条真也です。
日本映画「家族はつらいよ」を観ました。
「男はつらいよ」シリーズなどをはじめ、長年にわたって「家族」を撮り続けてきた名匠・山田洋次監督による喜劇です。橋爪功と吉行和子が離婚の危機に瀕(ひん)する熟年夫婦を演じ、長男夫婦を西村雅彦と夏川結衣、長女夫婦を中嶋朋子と林家正蔵、次男カップルを妻夫木聡と蒼井優が演じています。
■結婚50年で離婚の危機をユーモラスに
結婚50年を迎えた夫婦に突如として訪れた離婚の危機と、それを機にため込んできた不満が噴き上げる家族たちの姿をユーモラスに描いています。
この映画、山田監督が2013年につくった「東京家族」とほとんど同じ俳優が同じような役柄を演じていました。小津安二郎監督の名作「東京物語」完成から60周年および山田監督の監督生活50周年を記念して製作された作品です。山田監督は悲劇(感動ドラマ)と喜劇の両方の視点から描くことによって「家族」の本質を浮き彫りにしたかったのかもしれません。
わたしは東京・有楽町の映画館で鑑賞したのですが、館内には老夫婦の観客が多かったです。それが必ず御主人(おじいさん)のほうがよくしゃべるのです。つぶやきといったレベルではなく、けっこう大きな声でしゃべるのです。きっと隣りに座っている奥さん(おばあさん)に聞かせるために声を出しているのでしょうが、「なるほどねぇ」とか「役者ってのは、やっぱり演技がうまいねぇ」とか、どうでもいいような下らないことを大きな声で言うのです。
もしかしたら、自宅でテレビを観ている感覚なのかもしれません。でも、聞いている奥さんのほうは無言でしたね。「あなた、静かにしなさいよ」ぐらい言ってくれてもいいと思いましたけど...。
わたしは、そんな様子を見ながら、「男っていうのは変な行動をする動物だな」と改めて思いました。映画そのものが、そんな男がいやになってしまった女から離婚を切り出すという話なのですが、客観的にみて、夫婦の中では圧倒的に夫のほうが非常識な人間が多いように思います。吉行和子が家族の前で切々と訴えた「別れたい理由」については、わたしも含めて、すべての男性に思い当たる節があるのではないでしょうか。
わたしの行った映画館には、平気で周囲に迷惑をかける御主人たちがいました。この人たちは、きっと家でも奥さんに迷惑をかけ続けているのではないかと思います。ある日、奥さんから離婚届を突きつけられるかもしれません。わたしは、この映画を観ながら「迷惑とは何か」ということをずっと考えていました。
■終活ブームの背景に「迷惑」あり
「終活」がブームになっています。「終活」という言葉には何か明るく前向きなイメージがありますが、わたしは「終活」ブームの背景には「迷惑」というキーワードがあるように、ずっと思っていました。「無縁社会」などと呼ばれる現在、みんな、家族や隣人に迷惑をかけたくないというのです。
「残された子どもに迷惑をかけたくないから、葬式は直葬でいい」「子孫に迷惑をかけたくないから、墓はつくらなくていい」「失業した。まったく収入がなく、生活費も尽きた。でも、親に迷惑をかけたくないから、たとえ孤独死しても親元には帰れない」「招待した人に迷惑をかけたくないから、結婚披露宴はやりません」「好意を抱いている人に迷惑をかけたくないから、交際を申し込むのはやめよう」。すべては、「迷惑」をかけたくないがために、人間関係がどんどん希薄化し、社会の無縁化が進んでいるように思えます。
結果的に夫婦間、親子間に「ほんとうの意味での話し合い」がなく、かえって多大な迷惑を残された家族にかけてしまうことになります。亡くなった親が葬儀の生前契約、墓地の生前購入などをしたことをわが子に知らせなかったために、本人の死後、さまざまなトラブルも発生しているようです。みんな、家族間で話し合ったり、相手を説得することが面倒くさいのでしょう。その意味で「迷惑」という建前の背景には「面倒」という本音が潜んでいるのではないでしょうか。わたしには、そう思えてなりません。
■感謝の気持ち忘れずに
そもそも、家族とはお互いに迷惑をかけ合うものではないでしょうか。子供が親の葬式をあげ、子孫が先祖の墓を守る。当たり前ではないですか。そもそも"つながり"や"縁"というものは、互いに迷惑をかけ合い、それを許し合うものだったはずです。家族だって隣人だって、みんなそうでした。
家族とは迷惑をかけ合うもの。しかしながら、感謝の「こころ」を忘れてはなりません。そして、「こころ」は「ことば」にしたり、「かたち」にしたりする必要があります。「こころ」を「かたち」にする最高の場面こそ、冠婚葬祭です。夫婦の場合であれば、「金婚式」や「銀婚式」でしょうか。わたしの両親は3年前に金婚式を、わたしたち夫婦は2年前に銀婚式を迎えました。わたしたちが金婚式を迎えるまでには、あと23年もあります。感謝の気持ちを忘れずに、仲良く暮らしていきたいものです。