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一条真也
「すごすぎる!教授退職記念講演」
鎌田東二という方がいる。宗教哲学者にして神道ソングライターという異色の存在である。いつも緑色の服装をしている不思議な人だ。
出会いはもう四半世紀前になる。意気投合して「義兄弟」の間柄となったわたしたちは、10年以上も満月のたびにWEB上で文通を交わし、共著も5冊を数える。
その鎌田氏が8年間勤めた「京都大学こころの未来研究センター」を定年退職されることになった。記念の講演会・シンポジウムが京都で開催されるというので、わたしも小倉から新幹線で駆け付けた。
鎌田氏は記念講演に先立って、まず法螺貝を独奏した。続いて、直立不動のまま歌い出したので驚いた。まるでミュージカルの舞台を見ているようだったが、その歌は「この光を導くものは この光とともにある♪」で始まり、最後は「生きて、生きて、生きてゆけ~♪」で終わる不思議な歌であった。10年前にJR渋谷駅の階段の間で、この歌が思い浮かんだという。
いよいよ退職記念講演がスタートした。演題は「日本文化における身心変容のワザ」であったが、鎌田氏は開口一番、「日本文学、日本宗教の本質は歌だと思います」と述べた。そして、「今日は日本文化の本質を語りたい」と言い、『古事記』や『古今和歌集』との出会いを熱く語った。
鎌田氏は、『古今和歌集』の編者として「仮名序」という歌の哲学を書いた紀貫之や、宇宙を容れる器としての俳諧を究めた松尾芭蕉のことを「すごすぎる!」と絶賛した。
講演後は、パフォーマンスの時間である。鎌田氏は石笛、横笛、法螺貝を立て続けに演奏した。さらには、サングラスをかけ、エレキギターで神道ソングを歌い始めたのである。
アカデミズムの殿堂である京都大学の稲盛ホールが一瞬にしてライブハウスに変貌した。何から何まで型破り、前代未聞・空前絶後の教授退職記念講演だった。「すごすぎる!」の声が各所から上がっていた。