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一条真也
「『こころの世界遺産』とは」

 

 わたしは、人間の「こころ」に大きな影響を与えてきた人物や書物に深い関心がある。
 以前、『世界をつくった八大聖人』(PHP新書)という本を書いたが、そこでブッダ、孔子、老子、ソクラテス、モーセ、イエス、ムハンマド、聖徳太子の8人を取り上げた。これまでの歴史において最大級の影響を人類に与えてきたばかりでなく、現在もなお影響を与え続けている人々だ。
 もちろん、この8人以外にも世界史に特筆すべき人物は多くいる。ざっと挙げてみても、アレクサンダー、始皇帝、カエサル、ナポレオン、徳川家康などなど、いわゆる「英雄」と呼ばれる人々の名が浮かんでくる。たしかに彼らの成し遂げた実績は偉大で、後世への影響力も甚大であった。
 しかし、アレクサンダーが人類初の普遍帝国をめざして創ったマケドニア王国も、広大な中国を最初に統一して始皇帝が開いた秦も、当然ながら今では存在していない。さらには強大で不滅のように思われたローマ帝国でさえ滅び、万全の防衛体制を誇った徳川幕府も簡単に倒されてしまった。
 英雄たちは、あくまでも過去に生きる者なのである。その直接的な影響力は現在では消えるか、弱まってしまっている。
 一方、聖人たちは、いずれも宗教や哲学といった人間の「こころ」に関する世界を開き、掘り下げていった人々であり、その影響力は現在でも不滅である。
 また、『ギリシャ神話』や『古事記』、『イソップ寓話』や『アラビアン・ナイト』、さらには、アンデルセンや宮沢賢治といった童話作家たちの作品も、多くの人々の「こころ」に影響を与え続けている。
 これらの書物は「こころの世界遺産」と呼べる人類の宝である。これから毎月、紹介していきたい。