第29回
一条真也
「非道を知らず存ぜず」上杉謙信
言葉は、人生をも変えうる力を持っています。今回は、「越後の龍」などと呼ばれた戦国武将の上杉謙信の言葉です。
謙信が越後国一宮・彌彦神社に奉納した願文の中に、「非道を知らず存ぜず」という言葉が出てきます。
毘沙門天を崇拝するがゆえに「毘」の旗を掲げて戦国の世を生きた謙信は、不正や不義を許すことが出来ない人でした。
謙信は武将として天賦の才に恵まれた上に、一流の教養人でもありました。そして、礼節に基づいた「心ゆたかな社会」の実現をめざしていたのです。
謙信の最大のライバルであった武田信玄は「敵の悪口はいうな」という言葉を残していますが、もちろん謙信その人も敵の悪口は言わない人でした。
謙信はもともと熱心な仏教信者でしたが、それだけに大将としての権謀術数ぶりもさることながら、戦い方は情け深く公平で、相手の非に付け込まなかったといいます。それはまさに、江戸時代に確立する武士道の源と言えるでしょう。
この謙信の清々しい姿勢が「非道を知らず存ぜず」という言葉には込められているのです。わたしは謙信を尊敬しています。