2015
06
株式会社サンレー
代表取締役社長
佐久間庸和
「目に見えないものを
目に見せる魔術師になろう!」
●52回目の誕生日を迎えて
5月10日は、わたしの52回目の誕生日でした。
一昨年は「自分が50歳になったなんて!」と愕然としました。でも、昨年は51歳になったからといって別に何とも思いませんでしたね。もう、すっかり50代の人生に慣れてしまったようです。
それでも、多くの社員のみなさんから「おめでとうございます!」とお祝いの言葉を頂戴して感激しました。
誕生日を祝うということは、「あなたがこの世に生まれたことは正しいですよ」と、その人の存在を全面的に肯定すること。人間関係を良くするうえで、これほど大切なことはありません。
「人間尊重」をミッションとするわが社では、毎月の社内報に全社員の誕生日情報を掲載(年齢は秘密)し、「おめでとう」の声をかけ合うように呼びかけています。誕生日当日には、社員のみなさんにバースデーカードを添えて、ささやかなプレゼントをお渡しします。わたしも、会社から素敵な「天下布礼」の今治タオルを貰いました。
●「おめでとう」と「ありがとう」
わたしは、ハートフル・ソサエティとは、「おめでとう」と「ありがとう」が行き交う社会であると考えています。ですから、「誕生日おめでとうございます」と言われたら、素直に「ありがとうございます」と答えたいと思っています。
思いやりの言葉が「おめでとう」なら、「ありがとう」は感謝の言葉です。「おめでとう」がサーブなら、「ありがとう」はレシーブと言えるでしょう。思いやりの心とともに人間にとって最も大切なものこそ感謝の心です。
「ありがとうという気持ちを持ち続けていれば、不平、不満、怒り、怖れ、悲しみなんか自然に消えてなくなる」とは、中村天風の言葉です。わたしたちは、感謝すべき出来事があって、その後に感謝するのが普通です。しかし天風は「とにかく、まずはじめに感謝してしまえ」と教えるのです。いま、ここに「生きている」というだけでも、大きな感謝の対象になるというのです。
●本当に大切なものは、目には見えない
今年の「庸軒ごよみ」の5月の道歌は「見えぬもの見えるかたちにする人は まこと不思議な魔法使いよ」というものでした。
わたしは、学生時代に魔法を学びました。それは、小笠原流礼法という魔法です。「思いやりの心」「うやまいの心」「つつしみの心」という3つの心を大切にする小笠原流は、日本の礼法の基本です。特に、冠婚葬祭に関わる礼法のほとんどすべては小笠原流に基づいています。わたしは、礼法というものの正体とは魔法にほかならないと思います。
サン=テグジュペリの『星の王子さま』には「本当に大切なものは、目には見えない」という有名な言葉が出てきます。
本当に大切なものとは、人間の「こころ」です。その目には見えない「こころ」を目に見える「かたち」にしてくれるものこそが、立ち居振る舞いであり、挨拶であり、お辞儀であり、笑いであり、愛語などではないでしょうか。それらを総称する礼法とは、つまるところ「人間関係を良くする魔法」なのです。
●見えないものを形にする
大事なことは、見えないものを形にして目に見えるようにすることです。
そんなことが可能なのかと思うかもしれませんが、もちろん可能です。
見えないものを形にするとは、茶道、華道、能、日本舞踊などの芸道がそうですし、剣道や弓道などの武道もそうです。ヨガや気功なども含めて、一般に身体技法というものは見えないものを見えるようにする技術なのです。広い意味での芸術や芸能もそうです。それらは、「こころ」を「かたち」にするテクノロジーだと言えるでしょう。
そして、サービス業において見えないものを形にする技術が挨拶、お辞儀、しぐさ、笑顔、愛語、といったものです。わたしたちが普段から心がけているこれらのものこそ、本当に大切なものを目に見える形でお客様に提供することができるのです。
どうか、「思いやり」「感謝」「感動」「癒し」といった、この世で本当に大切なものを目に見える形にして下さい。
●ハリー・ポッターと空海
魔法といえば、ハリー・ポッターです。
先日、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」に行きました。魔法使いの少年が大活躍する『ハリー・ポッター』シリーズが世界的な大ベストセラーになりましたが、「魔法」とは正確にいうと「魔術」のことです。
魔術とは人間の意識、つまり心のエネルギーを活用して、現実の世界に変化を及ぼすものとされています。ならば、相手のことを思いやる「こころ」のエネルギーを「かたち」にして、現実の人間関係に変化を及ぼすことは魔法そのものではないでしょうか。同じ魔術でも、人を不幸にする「呪い」という黒魔術と、人の幸せを願う「祝い」という白魔術があります。
USJ訪問の前日には、わたしは高野山を訪れました。今年で開創1200周年を迎える高野山を開いた弘法大師・空海は日本史上最大の魔術師だったのかもしれません。いや、司馬遼太郎が言うように日本人で初めて「人類史的存在」であった空海は魔術をも超越した「超・魔術師」でした。
もちろん、わたしは空海のような天才ではありませんが、礼法や冠婚葬祭を通じて、多くの方々を幸せにすることができる「白魔術師」を目指したいと願っています。
礼の道歩むわれらの宝とは
見えないものを見せる魔法よ 庸軒