第23回
一条真也
「人の一生は重き荷を負うて遠き道を行くが如し」徳川家康

 

 言葉は、人生をも変えうる力を持っています。今回は、江戸幕府を開いた徳川家康の言葉です。今年は家康がこの世を去って400年に当たります。彼の遺言は「東照宮遺訓」として、残されています。

「人の一生は重き荷を負うて 
 遠き道を行くが如し 
 急ぐべからず
 不自由を 常と思えば 不足なし
 心に望みおこらば 
 困窮し足る時を思い出すべし
 堪忍は無事長久の基
 怒りを敵と思え
 勝つことばかり知りて 
 負くるを知らざれば 
 害その身に至る
 己を責めて 人を責むるな
 及ばざるは過ぎたるより勝れり 」

 歴史上、あらゆる日本人の中でも最高の成功者は、徳川家康ではないでしょうか。苦難の末に「天下統一」を成し遂げ、265年も続いた江戸時代の礎を築いた人物として有名です。数奇な運命をたどり、幽閉などの不遇の時代がありましたが、そのときに集中的に本を読んで読書好きになったのか、家康は非常な読書家として知られています。読書から得た歴史の知識などを活用した行動で、戦国の乱世を勝ち抜いて成功したとされているのです。家康は特に『論語』などの儒教書を好んで読んだといいます。

 じつは、彼の開いた江戸時代は儒教の理想とする世界を実現しています。たとえば、儒教の特徴として、高齢者を敬うという「敬老」思想があります。家康は、将軍に次ぐ幕府の最高職を「大老」、続いて「老中」、そして「年寄」、各藩においても藩主の次に「家老」を置くなど、徹底して「老」を重視した組織を構築しました。

 庶民の間でも、高齢の「隠居」に何でも相談するという敬老文化、あるいは好老文化が花開きました。そして、江戸幕府は、世界史に冠たる「長期安定政権」となりました。高齢者を大切にする社会は長続きするという法則を、家康は儒教書から学んだように思えてなりません。

 「東照宮遺訓」からは「人生は長く、苦しいことが多いので、辛抱強く努力を重ねて進むべきである」というメッセージが読み取れます。しかしながら、わたしは、じつは家康は孔子から受け継いだ「人は老いるほど豊かになる」という信条の持ち主であったと思います。