「野にたゆたう博物学」というサブタイトルがついています。
この本、いま読書界というか書評界で絶賛されている本です。大学の出版部の刊行物であり、税込みで2160円もするのですが、かなり売れています。
著者は1982年生まれで、とにかく生き物が好きでたまらない研究者です。
著書は、自身を「奇怪な生き物」と呼んでいます。その奇怪な生き物(著者)が身近な裏山、はては異国のジャングルに住むもっと奇怪な生き物たちと出合い、そして愛し合った日々をつづった物語が本書であると述べています。
第1章「奇人大地に立つ」の冒頭、著者は次のように書いています。
「いまからおよそ30年前、神奈川県で理由もわからずに生を受けた私は、父の仕事の関係で日本各地を点々とする日々を送った。自我が目覚めた当時、近所に年の近い子供がいなかった私は、必然的に庭先の虫や小動物だけを相手に遊ぶようになり、やがてそれらをただのおもちゃ代わりから研究対象、そして人生のパートナーとして意識するようになっていった」
本書には、数多くの生き物たちの写真が掲載されています。そのどれもが素晴らしい写真で、写っている生き物たちが魅力的に見えています。じつは、これらの写真を撮影したのは著者自身とのことで、なかなかカメラマンとしての才能も豊かな人物のようです。
また著者は文章も上手で、生き物にはそれほど関心のないわたしでさえ一気に読了しました。ケカゲロウの生態解明とか、ハラボソメバエの観察など、門外漢のわたしでさえハラハラドキドキしてしまいました。なんだか、少年時代に読んだ『ファーブル昆虫記』を思い出しました。最近日本でも話題になったデング熱を実際に著者が患ったくだりは手に汗しながら読みました。
また、本書のところどころには「コラム」が挟まれているのですが、これがまた信じられないほど面白いのです。「祖母の珍言」とか「ヒゲのジョージ」などはもう最高です。この人、コラムニストとしても一流だと思いました。
本書には全篇、小さな虫とか生き物たちが登場します。わたしの日常生活とはまったく縁がない世界ですが、著者のことを「うらやましいほど心豊かな人だなあ」と思いました。これほど自分の人生を好きなものに賭けることができたら、どんなに自由で素敵なことでしょうか!
虫を観察しているときの著者の心は、きっと大宇宙で遊んでいるのでしょう。