第25回
佐久間庸和
「人間尊重を求めて」

 

 最近、わたしは人に会うたびに1冊の本をお渡ししている。わたしには約70冊の著書があるが、渡すのは自分の本ではない。わたしの父であり、サンレーグループ会長の佐久間進著『人間尊重の「かたち」』(PHP研究所)という本である。
 タイトルにある「人間尊重」は、出光興産の創業者である出光佐三翁の哲学を象徴する言葉だ。父が若い頃、地元・北九州からスタートして大実業家となった佐三翁を深く尊敬しており、その思想を象徴する「人間尊重」という語を自社の経営理念としたのである。
 以後、「人間尊重」はわが社のミッションとなっています。
サブタイトルは、「礼の実践50年」。これは、出光佐三著『人間尊重五十年』(春秋社)を連想させ、そのまま佐三翁へのオマージュとなっている。

 『人間尊重の「かたち」』で、父は「私の人生を振り返る時、礼の実践を通して、『人間尊重』とはどういう『かたち』になるのかを社会経営、社会貢献の中で目指してきたのではないか、そんな思いがしています」と述べ、さらに「人間尊重とは、人と人とがお互いに仲良くし、力を合わせることです」と書いている。
 佐三翁は96年の生涯の中で、自社の社員に「金を儲けよ」とは一度も言ったことがないという。その代わりに「人を愛せよ」と言った。そして、「人間を尊重せよ」と言った。

 「人間尊重」といえば、2500年前の古代中国で孔子が説いた「礼」に源流がある。そう、「人間尊重」とは「礼」の別名なのである。そこに父は気づいたのだ。
 かつて、陽明学者の安岡正篤は、「本当の人間尊重は礼をすることだ」と喝破した。
 また、「経営の神様」といわれた松下幸之助も、何より礼を重んじ、「礼とは『人の道』である」と述べている。
 さらに「人間尊重」の思想は、「人が主役」と唱えたドラッカーの経営思想にも通じる。
 父が座の銘とし、わが社のミッションとした「人間尊重」は、孔子から出光佐三まで多くの偉大な先人たちのメッセージが込められているのである。 

 冠婚葬祭業を生業とするわが社においては「礼とは人間尊重である」という考え方を全社員で共有することを目指している。
 最後に、出光佐三翁は「石油業は、人間尊重の実体をあらわすための手段にすぎず」という言葉を社員に伝えている。
 不遜を承知で言わせていただければ、わたしは「冠婚葬祭業とは、人間尊重の実体をあらわすことそのものである」と言いたい。