91
一条真也
「笑いとは和来である~日本人の根本精神」

 

こんにちは、一条真也です。
32年間にわたって放映された国民的長寿番組である「笑っていいとも!」が終了しましたね。
3月31日の夜、記念特番である「笑っていいとも! グランドフィナーレ」を観ました。わたしは基本的にテレビを観ない人間で、特にバラエティ番組はまったく観ないのですが、31日の夜は「笑っていいとも! グランドフィナーレ」を観ました。31日の昼に32年間にわたって放映された長寿番組が最終回を迎えました。そして、その夜に記念の特番が組まれたのです。
じつは、これだけの長寿番組が終わるにあたって、わたしは「なにか人生の卒業式としての葬儀演出のヒントがあるかもしれない」という思いがあり、最後は番組を観るつもりでした。
番組の後半では、ゲストからタモリへ感謝の言葉が述べられました。みんな素晴らしいスピーチで、わたしは「やっぱり、芸能人はすげえ!」と感心しました。録画もしましたが、これは冠婚葬祭のスピーチなどにも役立つ一大データベースになると思います。お笑い界の大物が多かったので、みんな、ある意味ですごい緊張感があったと思いますが、「とんねるず」も「ぴーす」も「タカアンドトシ」も「さまぁ~ず」も「爆笑問題」も、みんなオチがあって素晴らしいスピーチでした。
「笑っていいとも! グランドフィナーレ」には、これまで同番組に出演した芸能人が大量に出演していました。特にお笑い界の人が多く、さながら日本の「お笑いサミット」の観がありました。
日本のお笑い界では、「笑っていいとも!」の司会を務めたタモリ、ビートたけし、明石家さんまの3人を"BIG3"と呼びますが、31日昼の最終回の「テレフォン・ショッキング」にはビートたけしが出演し、さんまに電話をかけました。最後の最後で、"BIG3"の揃い踏みが実現したわけです。さんまは、夜の特番にも出演し、ロングトークを繰り広げました。これがもう、涙が出るほど面白かった! そして、ダウンタウン、ウッチャンナンチャン、とんねるず、爆笑問題、ナインティナインがやって来た。まさに奇跡の顔ぶれです!不仲や確執が噂されていたコンビもいましたが、そこではみんながニコニコと笑顔で一緒の場所にいた。その光景を見て、わたしは感動していました。
そして、わたしはある記者会見の様子を思い出していました。
日本人宇宙飛行士の若田光一さんが、国際宇宙ステーション(ISS)の新船長に就任した記者会見です。日本時間の3月9日、若田さんは前任のオレッグ・コトフ宇宙飛行士(ロシア)から引き継ぎを受け、第39代目のISS船長に就任しました。日本人としては初の快挙です。
若田さんは「和の心を持って舵取りをしたい。チーム全員でいい仕事をできるように頑張っていきたい」と意気込みを述べました。就任後に3人が地球に帰還し、現在滞在している飛行士は3人。広い船内でバラバラに作業することもあるため「夕食は3人で一緒にとるようにしている」と、チームの和を重視する若田流の運営を明かしました。異なる国籍の人々が宇宙空間でチームを結成するわけですが、わたしは萩尾望都の『11人いる!』を連想しました。SFマンガの名作ですが、やはり異なる国籍間の宇宙チームの人間関係を描いているのです。
日本人である若田氏は、司令塔として5名の宇宙飛行士メンバーの体調や仕事の負荷を見ながら、「和の心」でスケジュール調整をしていきます。本当に素晴らしいことです。宇宙飛行士としての若田氏の能力や人間性が高く評価されたのは当然ですが、これは日本人が国際的に信用される民族として認められたことにもなります。そして、日本人の根本精神こそは「和」の心です。
「和」は、日本文化を理解する上でのキーワードです。陽明学者の安岡正篤によれば、日本の歴史を見ると、日本には断層がないことがわかるといいます。文化的にも非常に渾然として融和しているのです。
征服・被征服の関係においてもそう。諸外国の歴史を見ると、征服者と被征服者との間には越えることのできない壁、断層がいまだにあります。しかし日本には、文化と文化の断層というものがありません。早い話が、天孫民族と出雲民族とを見てみると、もう非常に早くから融和してしまっています。
三輪の大神神社は大国主命、それから少彦名神を祀っていますが、少彦名神は出雲族の参謀総長ですから、本当なら惨殺されているはずです。それが完全に調和して、日本民族の酒の神様、救いの神様になっています。その他にも『古事記』や『日本書紀』を読むと、日本の古代史というのは和の歴史そのものであり、日本は大和の国であることがよくわかります。
「和」を一躍有名にしたのが、かの聖徳太子です。太子の十七条憲法の冒頭には「和を以って貴しと為す」と書かれています。十七条憲法の根幹は和というコンセプトに尽きます。しかもその和は、横の和だけではなく、縦の和をも含んでいるところにすごさがあります。上下左右全部の和というコンセプトは、すこぶる日本的な考えです。それゆえに日本では、多数少数に割り切って線引きする多数決主義、いわゆる西欧的民主主義流は根付きませんでした。
日本とは、何事も辛抱強く根回しして調整する全員一致主義の国なのです。
記者会見では、若い日本人記者から「船長の特権で何かしたいことはありますか? 例えば、食事のメニューを決定するとか、ベッドを大きくするとか?」といった能天気な質問が飛び出しました。
それを聞いて一瞬きょとんとした表情をした若田氏は、次の瞬間、大笑いしました。まさに破顔一笑という感じでしたが、それから「食事のメニューを決められたらいいですけど、残念ながら、そんな権限が船長にはないんですよ」とニコニコしながら答えました。
その笑い方の豪快なこと! また、その笑顔の魅力的なこと!
わたしは一発で、若田さんの大ファンになりました。そして、その「笑い」と「笑顔」こそが彼の言う「和」の心に通じているのだと気づきました。「笑う門には福来る」という言葉がありますが、「笑う門には和が来る」でもあるのです。そう、「笑い」とは「和来(わらい)」ではないでしょうか。日本人初のISS船長となった若田光一氏さんの御健康と任務が無事に遂行されることを心よりお祈りいたします。

2014.04.15