第19回
佐久間庸和
「新しい『冠婚葬祭入門』を」

 

 4月の初めに冠婚葬祭のマナーブックを上梓する。その名も『決定版冠婚葬祭入門』。

 版元は創業120年の伝統を誇る実業之日本社で、同社は「論語と算盤」で有名な澁沢栄一翁が創業に関わられているとのこと。

 近代日本の出版史を振り返ると、日本万国博覧会が開催された1970年に超ベストセラーが誕生した。塩月弥栄子氏の『冠婚葬祭入門』(光文社)だ。
 実に308万部を売上げ、シリーズ全体(全4冊)で700万部を超える大ミリオンセラーとなった。同名でTVドラマ化、映画化もされている。

 あの頃、日本の冠婚葬祭は大きな変化を迎えて、誰もが新しい冠婚葬祭のマナーブックを必要としていた。

 今また結婚式も葬儀も大きく変貌しつつあり、「無縁社会」などと呼ばれる社会風潮の中で、冠婚葬祭の意味と内容が変わってきています。今こそ、新しい『冠婚葬祭入門』が求められているのだ。

 「冠婚葬祭」とは何か。結婚式と葬儀のことだと思っている人も多い。たしかに婚礼と葬礼は人生の二大儀礼ではあるが、「冠婚葬祭」のすべてではない。「冠婚+葬祭」ではなく、「冠+婚+葬+祭」なのである。
 「冠」はもともと元服のことで、現在では、誕生から成人までのさまざまな成長行事を「冠」とする。

 「祭」は先祖の祭祀。三回忌などの追善供養、春と秋の彼岸や盆、さらには正月、節句、中元、歳暮など、日本の季節行事の多くは先祖をしのび、神をまつる日であった。現在では、正月から大みそかまでの年中行事を「祭」とする。

 そして、「婚」と「葬」。結婚式ならびに葬儀の形式は、国により、民族によって、きわめて著しく差異がある。これは世界各国のセレモニーには、その国の長年培われた宗教的伝統や民族的慣習などの「民族的よりどころ」というべきものが反映しているからだ。
 日本には、茶の湯・生け花・能・歌舞伎・相撲といった、さまざまな伝統文化がある。そして、それらの伝統文化の根幹にはいずれも「儀式」というものが厳然として存在する。

 儀式なくして文化はありえず、ある意味で儀式とは「文化の核」であると言えるだろう。
 そして、核は不変でも、枝葉は変化する。情報機器の世界ではないが、冠婚葬祭にもアップデートが必要だ。基本ルールが「初期設定」なら、マナーは「アップデート」である。
 わたしは、現代日本の冠婚葬祭における「初期設定」と「アップデート」の両方がわかるよう、『決定版 冠婚葬祭入門』を書いた。