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一条真也
永遠の0

 

大ヒット公開中の映画「永遠の0」を観られただろうか。わたしは、昨年末の公開初日に鑑賞した。百田尚樹の大ベストセラー小説を「ALWAYS」シリーズなどの山崎貴監督が映画化した戦争ドラマだ▼一人の零戦搭乗員の短い生涯とその後の数奇な物語が感動的に描かれる。必ず家族の元に帰るという強い信念を抱いていた宮部久蔵は、終戦の直前、神風特攻隊に志願して帰らぬ人となる▼先の戦争とは「巨大な物語の集合体」ではなかったか。「永遠の0」も、巨大な集合体から派生した小さな物語に過ぎない。「男たちの大和」「硫黄島からの手紙」「一枚のハガキ」「風立ちぬ」や「終戦のエンペラー」も同じである▼実際、あの戦争からどれだけ多くの小説、詩歌、演劇、映画、ドラマなどが生まれていったことか。それを考えると、呆然としてしまう。もちろん「物語」といっても、戦争はフィクションではなく、紛れもない歴史的事実だ▼人間ひとりの人生も事実としての「物語」である。そして、その集まりこそが「歴史」となる。無数のヒズ・ストーリー(個人の物語)がヒストリー(歴史)を作るのだ。映画「永遠の0」は葬儀の場面から始まる。葬儀とは個人の物語に触れる舞台ではないか。そのように思った。(一条)

2014.2.10