言葉は、人生をも変えうる力を持っています。今回の名言は、出光興産の創業者である出光佐三の言葉です。
百田尚樹氏の『海賊とよばれた男』上下巻(講談社)が大変なベストセラーになっていますが、この経済歴史小説の主人公・国岡鐵造のモデルは出光佐三その人です。
彼は大成功を収めた経営者でしたが、その説くところはつねに形而上的な観念論であって、まるで哲学者のようでした。96年の生涯の中で、出光佐三は自社の社員に「金を儲けよ」とは一度も言ったことがないそうです。その代わりに「人を愛せよ」と言いました。そして「人間を尊重せよ」と言いました。「人間尊重」こそは、出光佐三の哲学を象徴する一語です。昭和28年4月、新入社員の入社式で出光佐三は次のような訓示を行いました。
「出光は事業会社でありますが、組織や規則等に制約されて、人が働かされているたぐいの大会社とは違っているのであります。出光は創業以来、『人間尊重』を社是として、お互いが練磨して来た道場であります。諸君はこの人間尊重という一つの道場に入ったのであります」
とても実業家の言葉とは思えませんが、出光佐三は生涯そんな言葉ばかり吐き続けました。それなのに、事業経営でも希代の成功者となった事実には考えさせられます。
「人間尊重」という考え方は2500年前の古代中国で重視されました。孔子が説いた「礼」こそは「人間尊重」の思想そのものでした。じつは、もうすぐ創業50周年を迎える弊社のミッションも「人間尊重」です。
現在は会長を務める創業者の父が、若い頃、地元・北九州からスタートして大実業家となった出光佐三を非常に尊敬していました。そして、その思想の清華である「人間尊重」を自らが創業したサンレーの経営理念としたのです。しかし、父は単に出光佐三の受け売りをしただけではありません。「人間尊重」を、冠婚葬祭の根幹をなす「礼」と同義語としてとらえたのです。
陽明学者の安岡正篤も「本当の人間尊重は礼をすることだ」と述べましたが、サンレーにおいては「礼とは人間尊重である」という考え方が芽吹き、育っていきました。
最後に、出光佐三は「石油業は、人間尊重の実体をあらわすための手段にすぎず」と言いました。不遜を承知で言わせていただければ、わたしは「冠婚葬祭業とは、人間尊重の実体をあらわすことそのものである」と思っています。