第2回
一条真也
「大切なものは目に見えない」サン=テグジュペリ

 

 言葉には、人生をも変える力があります。
 今回の名言は、フランスの作家サン=テグジュぺリの言葉です。彼の代表作である『星の王子さま』には、「本当に大切なものは目に見えない」という有名な言葉が出てきます。わたしが日頃から心の支えにしている言葉です。
 わたしの本業であるサービス業、それもホテル業や冠婚葬祭業といったホスピタリティ・サービス業の価値とは何でしょうか。それは、ずばり、目に見えないものを扱うことだと思います。
 思いやり、感謝、感動、癒し、夢、希望など、この世には目には見えないけれども存在する大切なものがたくさんあります。そして、その目に見えない本当に大切なものを売る仕事がサービス業なのですね。
 製造業はモノを残す仕事です。建設業は地図に残る仕事です。ならば、サービス業とは心に残る仕事にほかなりません。
 愛用している自動車やパソコン、またビルや橋を見ても、それに関わった人たちの顔は浮かんできません。でも、サービス業は違います。サービスしてくれた人の顔が浮かぶ仕事です。
 お客様の心に自分の顔が浮かんでくる仕事、こんな贅沢なことはありませんね。見えないものを形にして、目に見えるようにすることほど素敵なことはありません。
 そんなことが可能なのかと思うかもしれませんが、もちろん可能です。見えないものを形にするとは、茶道・華道、日本舞踊などの芸道がそうですし、剣道や柔道などの武道もそうです。ヨガや気功なども含めて、一般に身体技法というものは見えないものを見えるようにする技術なのです。広い意味での芸術や芸能もそうです。それらは、「こころ」を「かたち」にするテクノロジーだと言えるでしょう。 そして、サービス業において見えないものを形にする技術とは何か。それは、あいさつ、おじぎ、しぐさ、笑顔、愛語、といったものです。わたしたちが普段から心がけているこれらのものこそ、本当に大切なものを目に見える形でお客様に提供することができます。
 あいさつでもおじぎでも、マニュアルがあります。マニュアルに書かれた、また上司や先輩から指導された基本は、繰り返し行い、徹底してゆくことが必要です。それらが無意識に行えるレベルにまで高まったとき初めて、サービスのプロと呼べます。そして、「サービス」は「ホスピタリティ」へと進化するのではないでしょうか。