第8回
佐久間庸和
「世界一の『老福都市』を!」

 

  「老人漂流社会」という言葉をよく聞く。 今年1月に放映されたNHKスペシャルの番組名だが、高齢者が自らの意思で「死に場所」すら決められない現実が広がっているというショッキングな内容であった。
 一人暮らしで体調を壊し、自宅にいられなくなった高齢者。しかし、病院や介護施設も満床で入れない。そのために、短期入所できるタイプの一時的に高齢者を預かってくれる施設を数か月おきに漂流し続けなければならないという。
 超高齢社会を迎えた日本では、一人暮らしの高齢者、いわゆる「単身世帯」が500万を突破する勢いである。「住まい」を追われて漂流する高齢者があふれ出す異常事態が、すでに起き始めている。わたしは、全国の独居老人には、どんどん北九州に移住してほしいと真剣に考えている。
 もともと、わたしは北九州市を「高齢者福祉特区」にするべきだと訴えてきた。
 そして「人は老いるほど豊かになる」というコンセプトに基づく「老福都市」をイメージし、そのモデルとして高齢者複合施設である「サンレーグランドホテル」を北九州市の八幡西区に作った。いわゆるセレモニーホールと高齢者用のカルチャーセンターなどが合体した前代未聞の施設として話題になった。
 昨年からは高齢者介護事業にも進出し、日本一のローコスト有料老人ホーム運営をめざしている。1号店は飯塚市に作ったが、これからは北九州市内にも展開する予定だ。 近代工業社会はひたすら「若さ」と「生」を謳歌し、讃美してきた。しかし、高齢化社会では「老い」と「死」を直視して、前向きにとらえていかなければならない。今こそ「老い」と「死」を直視すること、そしてその幸福なデザインが求められているのである。
 日本は世界でもっとも高齢化が進行している先進国だが、その中でも北九州市はもっとも高齢化が進行している政令指定都市である。つまり、北九州市は世界一の超高齢化都市と言っても過言ではない。
 高齢化が進む日本の諸都市、世界各国の都市にとって北九州市とは自らの未来の姿そのものだ。「老福都市」が実現すれば、世界中から視察が来るだろう。ぜひ、北九州は高齢者が多いことを「弱み」ではなく「強み」ととらえていくべきである。
 かつて、公害都市から環境都市へと見事に変身した北九州市なら、世界一の高齢者先進都市に生まれ変われるはずだ。「禍転じて福となす」という発想で、人が老いるほど豊かになる世界一の「老福都市」をつくろう!