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一条真也
「老人漂流社会〜他人事ではない時代」
こんにちは、一条真也です。
今年1月20日に放映されたNHKスペシャル「老人漂流社会」が大きな話題を呼んでいます。番組の内容は、高齢者が自らの意志で「死に場所」すら決められない現実が広がっているというショッキングなものでした。
1人暮らしで体調を壊し、自宅にいられなくなった高齢者。しかし、病院や介護施設も満床で入れません。そのために、短期入所できるタイプの一時的に高齢者を預かってくれる施設を数か月おきに漂流し続けなければならないというのです。
超高齢社会を迎えた日本では、1人暮らしの高齢者、いわゆる「単身世帯」が今年で500万人を突破しました。「住まい」を追われ、「死に場所」を求めて漂流する高齢者があふれ出す異常事態が、すでに起き始めています。わたしも番組を観ましたが、非常に切なくなりました。
それとともに、この現状を打開するための考えをめぐらしました。
じつはNHKプロデューサーの板垣淑子氏から「ぜひ御覧いただきたいと思います」と書かれた直筆のお手紙を頂戴していました。板垣氏は、例のNHKスペシャル「無縁社会」のディレクターでもありました。互助会保証(株)の藤島安之社長のパナマ勲章伝達式の直後に開催された互助会保証主催セミナーで板垣氏が「無縁社会」をテーマに講演され、そこで初めてお会いしたのです。
『無縁社会』NHK「無縁社会プロジェクト」取材班編著(文藝春秋)の序章「"ひとりぼっち"が増え続ける日本」で板垣氏は、次のように述べています。
「そもそも"つながり"や"縁"というものは、互いに迷惑をかけ合い、それを許し合うものではなかったのだろうか――。その疑問は、取材チームの胸の内に突き刺さり、解消されることはなかった。
『迷惑をかけたくない』という言葉に象徴される希薄な"つながり"。
そして、"ひとりぼっち"で生きる人間が増え続ける日本社会。私たちは、『独りでも安心して生きられる社会、独りでも安心して死を迎えられる社会』であってほしいと願い、そのために何が必要なのか、その答えを探すために取材を続けていった」
わたしは板垣氏のいう「独りでも安心して死を迎えられる社会」という言葉に非常に共感しました。いたずらに「生」の大切さを唱えるばかりでは、社会を良くすることはできないからです。この言葉はテレビでも流れましたが、NHKがこういう言葉を堂々と放送するようになったことは喜ばしいです。
そして、新たに放映された「老人漂流社会」は、まさに「無縁社会」の続編ともいうべき番組でした。
正式なタイトルは、「終の住処はどこに~老人漂流社会」でした。
わたしは最初、妻と次女との3人で番組を観ましたが、非常に考えさせられました。また、会社の勉強会でも課長以上の役職者たちと一緒にも観ましたが、みんな一同に「他人事ではない」と言っていました。
しかし、先行した「無縁社会」と違って、「老人漂流社会」は絶望ばかりを与える内容ではありません。
番組の最後に登場する介護ヘルパーさんの「人を助けてあげて、いつか自分も助けてもらう」という言葉に、わたしは希望の光を見て感動しました。まさに「相互扶助」そのものです。
そして、わたしは、わが社が高齢者介護事業に進出し、「隣人館」をオープンしたことは間違っていなかったと確信しました。昨年2月20日の「隣人館」の竣工式において、わたしは以下のような施主挨拶をしました。まず最初に、「これまでは社会に良いことをすると儲からないと言われていましたが、社会に良いことをしないと儲からない時代、企業が存続していけない時代になりました」と言いました。
現在、日本の高齢者住宅は、さまざまな問題を抱えています。
民間施設の場合、大規模で豪華なものが多いですね。数千万円単位の高額な一時金など、金銭的余裕のある人しか入居できていません。また、公的施設の場合、比較的安価で金銭的余裕のない人でも入居はできます。しかし、待機者が多くて入居するまでに相当な年数がかかるなどの問題があります。さらに、高齢者はそれまで暮していた愛着のある地域を離れたがらない傾向があり、地域に根ざした施設が必要とされているのです。
わが社の「隣人館」の月額基本料金は、78,000円となっています。
その内訳は、家賃:33,000円、管理費:5,000円、食費:40,000円です。
まさに究極の地域密着型小規模ローコストによる高齢者専用賃貸住宅なのです。
飯塚市の次は、北九州市八幡西区折尾に2号店を計画しています。当初は自社遊休地へ建設しますが、将来的には全国展開を図りたいと思っています。
今さら言うまでもありませんが、わたしは孔子を尊敬しています。
孔子の説いた教えの2大ポイントは、「人は儀礼を必要とする」ということ、そして「人は老いるほど豊かになる」ということだと思います。
前者のほうは従来の冠婚葬祭事業がそのまま実践になっていますが、後者のほうはまさに高齢者介護事業がそれに当たります。その意味で、この事業は「人は老いるほど豊かになる」という長年の考えを実現するものであり、人間尊重を実行するという意味での「天下布礼」の一環でもあります。
大事なポイントは、とにかく「孤独死をさせない」ということです。隣人祭りをはじめとした多種多様なノウハウを駆使して、孤独死を徹底的に防止するシステムを構築することが必要です。わたしは、日本で最も高齢化が進む政令指定都市である北九州市をはじめ、日本中に「隣人館」を作りたいです。
その構想は各方面からも注目されています。新聞や雑誌の取材も多く受けましたし、先日は中央官庁の方々がわざわざ視察に来て下さいました。
「隣人館にさえ入居すれば、仲間もできて、孤独死しなくて済む」を常識にしたいです。
全国の独居老人は、どんどん隣人館に入居していただきたいです。
わが社は、「礼」の心で高齢者介護事業に取り組んでいく覚悟です。
わたしは『老福論』(成甲書房)という本を書きましたが、サブタイトルは「人は老いるほど豊かになる」でした。その言葉が真理であることを証明するためにも、万人の終の住処である「隣人館」を全国展開して、孤独死をこの国から完全になくしたいです。
「老人漂流社会」を「老人安住社会」に変えなければなりません。
2013.3.1