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一条真也
「ダライ・ラマと科学者の対話〜色即是空、空即是色」

 

こんにちは、一条真也です。
11月6日、7日の両日、ホテルオークラ東京で開催された「ダライ・ラマ法王と科学者の対話~日本からの発信」を聴講しました。
パンフレットによれば、このイベントの趣旨は以下の通りです。「宇宙や生命のより深い理解のために、世界の諸問題の解決のために、チベット仏教の最高指導者でノーベル平和賞受賞者のダライ・ラマ法王14世と日本を代表する科学者たちが共に互いの境界線を越え交わることで、今までにない新たな科学の創造の可能性に挑む」
1日目はダライ・ラマ14世のオープニング・スピーチに続いて、セッション1「遺伝子・科学/技術と仏教」には村上和雄氏(筑波大学名誉教授・農学博士)、志村忠夫氏(静岡理工科大学教授・工学博士)が、セッション2「物理科学・宇宙と仏教」には佐治晴夫氏(鈴鹿短期大学学長・理学博士)、横山順一(東京大学大学院教授・理学博士)、米沢富美子氏(慶應義塾大学名誉教授・理学博士)が、2日目のセッション3「生命科学・医学と仏教」には柳沢正史氏(筑波大学―テキサス大学教授・医学博士)、矢作直樹氏(東京大学大学院教授・医学博士)、河合徳枝氏(早稲田大学研究院客員教授・医学博士)、そしてクロージングセッションとなるセッション4「新たな科学の創造への挑戦~日本からの発信~」には全出演者が登場しました。日本を代表する科学者たちがダライ・ラマ14世と総括的対話を行った後で、最後はダライ・ラマ14世からのスピーチでイベントは盛会のうちに幕を閉じました。なお、すべてのセッションを通じてモデレーターは、ジャーナリストで元「朝日ジャーナル」編集長の下村満子氏でした。
非常に刺激的なイベントで、4つのセッションが開かれているあいだ、わたしは必死になってメモを取っていました。特に、今回のイベントへの参加を誘って下さった矢作直樹氏による霊性の領域に踏み込んだ勇気ある発言には感動しました。また、それに対するダライ・ラマ14世の言葉も世界最高の宗教家としての深い見識に満ちたものでした。
わたしは、もともと「現代の聖人」としてのダライ・ラマ14世を深くリスペクトしており、その著書はほとんど読んでいます。また、2008年11月4日に北九州市で開催された講演会にも参加しました。
それは福岡県仏教連合会が主催するイベントでしたが、わが社はパンフレットの広告などで協力させていただきました。わたしは、多くの僧侶たちと一緒に「現代の聖人」の話を聴きました。
ダライ・ラマは、「思いやり」というものの重要性を力説していました。そして、人を思いやることが自分の幸せにつながっているのだと強調したうえで、「消えることのない幸せと喜びは、すべて思いやりから生まれます。思いやりがあればこそ良心も生まれます。良心があれば、他の人を助けたいという気持ちで行動できます。他のすべての人に優しさを示し、愛情を示し、誠実さを示し、真実と正義を示すことで、私たちは確実に自分の幸せを築いていけるのです」と述べました。
2011年10月29日、ダライ・ラマ14世は日本を訪れました。
高野山大学創立125周年の記念講演を行うため、そして東日本大震災の被災地で犠牲者の慰霊と法話を行うためです。ダライ・ラマ14世は、仏教には特に「科学」に非常に近い性質があるとして、著書『傷ついた日本人へ』(新潮新書)において次のように述べます。
「仏教も科学も、この世界の真理に少しでも迫りたい、人間とはなにかを知りたい、そういった共通の目標を持っています。 たとえば、宇宙はどうして生まれたのか、意識はどのようなものか、生命とはなにか、時間はどのように流れているのかなど、仏教と科学には共通したテーマがとても多いのです。しかも、それらは現代の科学をもってしても、解き明かされてはいません。概念を疑ったり、論理的に検証したり、法則を導き出したりする姿勢も、仏教と科学は驚くほどよく似ています。科学はそれを数式や実験でもってアプローチし、われわれ仏教は精神や修行でもって説く。用いる道具は違いますが、目指している方向は同じなのです」
仏教と科学は同じ夢を見ている、というわけですね。
仏教とは「法」を求める教えですが、これは宇宙の「法則」にも通じます。わたしは、かつて『法則の法則』(三五館)に、仏教も科学も「法則」を追求する点で共通していると書きました。同書では、「幸せになる法則」についても考察しました。そこで行き着いたものこそ、仏教の「足るを知る」という考え方でした。けっして、キリスト教の「求めよ、さらば与えられん」ではないのです。
仏教は、キリスト教やイスラム教と並んで「世界の三大宗教」とされています。
しかし、宗教としては非常にユニークな思想体系を仏教は持っています。
キリスト教やイスラム教をはじめとして多くの宗教は、あらゆる事象を「神の意志」として解釈します。ニュートンが木からリンゴが落ちるのを見て「万有引力の法則」を発見するのも、ガンで死ぬのも、宝くじが当選するのも、すべて「神の思し召し」によるものなのです。しかし、仏教は違います。すべては「縁起」によるものなのです。それは、何らかの原因による結果の一つにすぎないのです。まさにこの点が、仏教が宗教よりも哲学であり、さらには科学に近いとされるゆえんなのです。
実際に、仏教と現代物理学の共通性を指摘する人がたくさんいます。
「極微」という最少物質の大きさは素粒子にほぼ等しいとされています。それ以下の単位は「空」しかありません。ですから、「空」をエネルギーととらえると、もう物理学そのものなのです。
仏教でもっとも有名な経典である「般若心経」には、「色即是空、空即是色」という文句が出てきます。「色」を「モノ」、「空」を「コト」と読み替えてみれば、すべてのものは単独では存在できず、森羅万象はつながっていることがわかります。現代物理学の到達点は、宇宙の本質がモノではなくコトであることを示しましたが、それははるか2500年前にブッダが人類に与えたメッセージでもあったのです。
仏教は、宗教と科学との接点に位置するものかもしれません。
「ダライ・ラマ法王と科学者の対話」を聴いて、そのことを再確認しました。
この貴重なイベントに誘って下さった矢作直樹氏に御礼のメールをお送りしたところ、次のような言葉が返ってきました。「真理を富士山に例えると、科学は近くがよく見える眼鏡をかけて足元をしっかり見ながら登山をするようなもので、とうていこの方法だけではいつまでたっても真理などわかるはずもないということを理解しないといけないといつも思っています」
さすがですね。じつは、ベストセラー『人は死なない』(バジリコ)の著者である矢作氏とわたしが対談し、その内容がPHP研究所から出版されることが決定しました。
「死」と「グリーフケア」の問題について、大いに語り合うつもりです。
こういった問題を医学者と冠婚葬祭業者が語り合うことは前代未聞であり、非常に意義のあることだと思っています。これも、ダライ・ラマ14世によるお導きかもしれません。本当に、ありがたいことです。
2012.12.1