第3回
一条真也
「ブッダの考え方で楽になろう!」

 

 このたび、『図解でわかる!ブッダの考え方』(中経の文庫)を上梓しました。
 わたしは、現代日本人はブッダの本当の考え方を知るべきであると思います。わたしたちは、大きな危機を迎えています。戦争や環境破壊などの全人類的危機に加え、日本人は東日本大震災という未曾有の大災害に直面しました。想定外の大津波と最悪レベルの原発事故のショックは、いまだ覚めない悪夢のようです。
 そんな先行きのまったく見えない時代で、必要とされる考え方とは何でしょうか。それは何よりも、地域や時代の制約にとらわれない普遍性のある考え方ではないかと思います。
 普遍性のある考え方といえば、わたしにはブッダ、孔子、ソクラテス、イエスといった世界の「四大聖人」の名が思い浮かびます。
 それらの聖人の中でも、これからの人類社会に最も求められる考え方を残したのがブッダではないかと思います。ブッダは、世界宗教である仏教を開きました。
 現在、仏教と現代物理学の共通性が指摘されています。ヒックス粒子の発見が話題になりましたが、極微という最少物質の大きさは素粒子にほぼ等しいとされています。それ以下の単位は仏教でいう「空」しかありません。「空」をエネルギーととらえると、もう物理学そのものなのです。
 また、かのアインシュタインは、「相対性理論」によって、物質とは生成消滅するものだということを説きました。これまで隠されていた物質の本性を初めて人類に明かしたと言えるでしょう。永遠不滅の物質など存在しないという彼の理論は、まさに仏教の「諸行無常」そのものです。
 このように、ブッダは今から2500年も前に宇宙の秘密を解明しているのです。
 それでは、ブッダの考え方はスケールが大きすぎて、現代に生きる一般人にはあまり関係ないのでしょうか。いや、そんなことはまったくありません。ブッダの考え方には、現代に生きるわたしたちが幸せになるためのヒントがたくさんあります。
 ブッダの考えを知るだけで生きるのが楽になることをいくつかあげてみましょう。
・当たり前ということに感謝できる
→諸行無常
・思うようにならないことだらけだ。でも、それはあなただけではない
→一切皆苦
・変わることの素晴らしさ。常に新しい自分に出会う喜び
→諸法無我
・まず自分からやってみる。結果の良し悪しにとらわれない
→因果応報
・日々工夫して、自分で答えを見つけることに価値がある
→不立文字
 現在、「仏教ブーム」だそうですが、その背景には一神教への不安と警戒が大きくあると思います。
 キリスト教世界とイスラム教世界の対立は、もはや非常に危険な状態に立ち入っています。異母兄弟というべきキリスト教とイスラム教の対立の根は深く、これは千年の昔から続いている業です。しかもその業の道をずっと進めば、人類は滅びてしまうかもしれない。それを避けるには、彼らが正義という思想の元にある自己の欲望を絶対化する思想を反省して、憎悪の念を断たねばならない。この憎悪の思想の根を断つというのが仏教の思想に他なりません。
 仏教は、正義より寛容の徳を大切にします。 いま世界で求められるべき【徳】は、"正義の徳"より"寛容の徳"、あるいは"慈悲の徳"です。この寛容の徳、慈悲の徳が仏教にはよく説かれているのです。
 わたしは、仏教の思想、つまりブッダの考え方こそが世界を救うと信じています。
 特に、わたしたち日本人は特にブッダの考え方を学ぶ必要があります。日本人の「こころ」は仏教、儒教、そして神道の三本柱から成り立っています。ただ、日本における仏教の教えは本来の仏教のそれとは少し違っています。インドで生まれ、中国から朝鮮半島を経て日本に伝わってきた仏教は、聖徳太子を開祖とする「日本仏教」という一つの宗教と見るべきだと、わたしは考えています。
 もちろん、日本仏教の中にも素晴らしい教えが多く説かれていますが、ブッダが説いたとされるオリジナルの教えを知ることも大事ではないかと思います。