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一条真也
「欧州葬儀事情

  〜合理性とホスピタリティを備えた人間美術館」

こんにちは、一条真也です。
9月のはじめ、冠婚葬祭互助会業界の仲間たちとヨーロッパ視察に行ってきました。
訪問国は、オランダとベルギーです。プロテスタントの国オランダの人口は1669万人で、カトリックの国ベルギーの人口は1095万人です。
この両国は、もともとルクセンブルクを加えて「ネーデルラント王国」を形成していました。「ネーデルラント」とは「低地地方」という意味です。
成田からANAでミュンヘンへ、そこからルフトハンザに乗り換えて、オランダの首都アムステルダムに入りました。オランダは、長崎にある「ハウステンボス」に本当にそっくりでした(笑)。
オランダの伝統的葬送は、埋葬、すなわち土葬です。
ドイツやフランスといった周辺国が火葬を容認していくのに対し、オランダでは火葬の導入が遅れましたが、1874年に「火葬を代替方法とするための王立協会」が設立され、火葬の容認と火葬場建設を推進する運動がスタートしました。40年後の1913年、オランダで初めての火葬場がついに建設されました。
埋葬の代替方法としての火葬は、1968年の「遺体処理法」制定で公認されました。
2011年現在、オランダ国内には95の火葬場があり、その約3割が埋葬墓地も併せ持っています。
火葬が公認されると、今度は遺灰処置の問題が出てきます。オランダでは遺灰の埋葬地が足りず、火葬した上で埋葬するというコストのダブル負担に遺族の不満が大きくなってきました。
そこで、散骨という方法が注目されました。オランダの立法府は、1991年に遺体処置法の改訂を行い、散骨の公認に踏み切ったのです。近年は散骨を希望する国民も増えており、オランダの埋葬場でも遺灰の墓地埋葬や散骨が行えるように敷地の再配分がなされています。
わたしたちは、アムステルダムに本社のあるDELA社、PC Hooft社という2つの葬儀社を訪問しました。
DELA社はオランダとベルギーで葬祭業および保険業を展開していますが、ヨーロッパ全体でも最大手の葬儀社です。1937年の創業で、もともとは葬儀の協同組合でした。
DELAとは「みんなの負荷を各自が負担し合う」という意味のオランダ語の略語だそうです。
その精神は「相互扶助」そのものであり、わたしは日本の冠婚葬祭互助会とルーツは同じだと感じました。DELA社は現在では300万人以上の会員を有し、オランダで30000件、ベルギーで18000件、合計48000件の葬儀施行を誇る欧州最大手の葬儀社にまで発展しました。
ベルギーにはアメリカ最大手の葬儀社SCIが進出していたのですが、数年前に撤退し、代わりにDELAがベルギー市場に参入したそうです。
ガリバーの参入を恐れたベルギーの葬儀業界は国を挙げてDELAの成長に歯止めをかけているようです。その最たる例がベルギーの火葬場で、広大な敷地に現代芸術の美術館かと錯覚するようなモダンな建物にSF映画に登場するようなスタイリッシュな焼却場を視察しました。
このオシャレな火葬場で葬儀を挙げる人々が増えているそうですが、その費用はなんと日本円で10万円程度だというのです。このような火葬場で10万円で葬儀ができるとなれば、DELAを含む既存の葬儀社にとっては大きな脅威となるでしょう。
ベルギーはカトリックの国ですが、教会で葬儀を挙げずに火葬場で行う人は増えているというのは驚きでした。この国でも、明らかに宗教離れが進んでいるようです。
一方、PC Hooft社はオランダの葬儀業界で中堅のトップに位置します。
同社は、アムステルダム郊外に「Westgaade」というセレモニーホールを所持していますが、ここは緑豊かな最高のロケーションでした。ここで年間2900件の葬儀が行われるそうです。
実際に葬儀が行われるホールは天井が高く、自然光が入るようになっていました。
祭壇脇には、本格的なグランドピアノが置かれていました。
さらに客席の上手にはパイプオルガンも備えられ、まるで近代的な教会のようでした。
弔問客の数は20人~500人で、平均は約100人とのこと。
平均単価は、4500~5000ユーロ。日本円では50万円というところでしょうか。
遺族の希望通りに葬儀が行われ、中にはパワーポイントを使って故人の生涯をプレゼンテーションする遺族もいるそうです。
驚いたのは、棺が電動で地下へ降りていくシステム。棺はそのまま施設内の火葬場へと移動し、火葬に処されます。また土葬の場合には、棺の横の巨大な扉が開き、そこから屋外の埋葬地へと棺を運び出すことができます。 火葬・土葬の両方に対応した最新システムに、オランダ人特有の合理性と、ある種の「ホスピタリティ」を痛感しました。
オランダは複合民族国家ですが、ここ最近は無宗教の葬儀が増えているそうです。またオランダはプロテスタントの国として知られますが、教会と無縁の人々が多くなってきているというのです。一方、イスラム教徒の数は増加しているといいます。
現在のオランダでは、宗教によらず「自分でやりたいようにやる」という葬儀スタイルが目につき始めています。日本における「お別れ会」に近い内容ではないかと感じました。
わたしは、これまでアメリカやヨーロッパ、または韓国のセレモニーホールを回ってきましたが、今回のオランダおよびベルギーの葬祭施設には多大なインパクトを受けました。
オランダとベルギーのセレモニーホールは、とにかく美しい!
オランダでは、その名も「ライフアート」という棺会社も訪問しました。この会社では植物や廃棄物を利用した棺を製作するのですが、その棺はアートそのもので、じつに美しいのです。エジプトのファラオのような棺や花柄のもの、その他、故人の人なりを表現した個性的な棺が大量に並んでいました。
さすがはレンブラントをはじめとした偉大な芸術家を多数輩出した地方です。
芸術大国の葬儀空間は、まさに美術館そのものでした。
1人の人間の人生を締めくくる「人生劇場」としてのセレモニーホールは「人間美術館」でもあります。
今後は日本のセレモニーホールも「人間美術館」を目指すべきでしょう。

2012.10.1