第30回
一条真也
『トーチソング・エコロジー』第1巻
いくえみ綾 著(幻冬舎コミックス)
今年のお盆、みなさんはどのように過ごされましたか?
もはやこの世にはいない大切な人を偲ばれたのではないかと思いますが、この作品は「死者は、いつも生者の側にいる」ということを描いた漫画です。
著者は、わたしより1歳下の1964年生まれで、北海道名寄市出身だそうです。著者の漫画を読むのは初めてですが、非常にわたし好みの漫画でした。何よりも、「生者と死者との共生」という世界観がしっくりきました。ちなみに、「トーチソング」とは「失恋歌」という意味ですね。
主人公の清武迪は、平凡な役者志望の若者です。彼の前に、自分にしか見えない不思議な少女が現れます。それから、彼は隣人・日下苑が恋心を寄せていた高校時代に自殺した親友の霊が見えるようになりました。
「親友を亡くした人は、自分の一部を失う」という言葉がありますが、まさに親友の死によって迪の一部は失われてしまったのでした。そんな迪の前に、ときどき親友の霊が現れては、他愛もない会話を交すのでした。といっても、この作品はいわゆるホラーではありません。死者が生者の側に寄り添っていることを当たり前のこととして自然に描いています。
このナチュラルな死者の描き方がタイトルの「エコロジー」という言葉につながるように思います。多くの人々が孤独な死を迎えている今日、動植物などの他の生命はもちろん、死者たちをも含めた大きな深いエコロジー、いわば「魂のエコロジー」のなかで生と死を考えていかなければなりません。
本書『トーチソング・エコロジー』が、日本人が「魂のエコロジー」を考え直すきっかけになることに大いに期待しています。