第28回
一条真也
『なんだかなァ人生』柳沢きみお著(新潮社)

 

 著者は、わたしの愛読する漫画家です。デビュー作の『翔んだカップル』から最新の『特命係長 只野仁』まで、これまで著者は多くの名作を世に送り出してきました。でも、本書は漫画ではなく、自伝エッセイです。
 著者の代表作の1つに『大市民』という作品があります。中年の作家が安いアパートに1人暮らしをして、ひたすら酒を飲んだり旨いものを食べたりする話です。作品の中では、彼の意見としてさまざまなウンチクが語られます。そのウンチクの量たるやハンパではなく、次第に増えていって、漫画なのに絵よりも活字のほうが多いという状態にまでなりました。
 一時は、まるで「エッセイ漫画」というより「漫画付きエッセイ」のような域にまで達していました。その連載終了を機に、著者は長年の夢だった「大人を相手にした雑誌」で本当のエッセイ連載をしようではないかと決心したそうです。そして、「週刊新潮」での連載がスタートしました。
 『大市民』と同様、本書の大きな魅力は、「食」に関するウンチクです。蕎麦、牛丼、サラミやチーズなどのツマミをはじめ、本書には旨そうな物がたくさん登場します。でも、なんといっても、著者一番の好物であるという鮨の話が最高です。わたしは、イカの握りを塩とレモンで食べるのが好きなのですが、これは著者の影響です。鮨といっても高級店ではなく、郊外の繁華街のビル内にあるレストラン街にあるような鮨屋を訪れ、ついには回転寿司にまで門戸を広げます。本書を読んでいると、次から次に食べ物とお酒の話が出てきますが、その合間に人生の話も出てきます。これがまた何とも渋い話題ばかりで、いちいち納得させられるのです。もし、あなたが大人なら、必読です!