第51回
一条真也
『釈迦の教えは「感謝」だった』小林正観著(風雲舎)
著者は心学研究家として多くの名著を書かれましたが、昨年10月に病気のために亡くなられました。
新時代の「心学」の道を求めるわたしは、先達である著者が書いた一連の本を再読しました。その膨大な著書の中で最も心に強く残ったのが本書でした。
著者によれば、釈迦が言った「苦」とは「思い通りにならないこと」という意味でした。ですから、「思いどおりにしよう」とするのをやめ、「受け容れる」ことが大事だと説きます。「受け容れる」と、自分自身が楽になるといいます。
2500年前にその構図を発見した人こそ釈迦でした。釈迦は、その発見を後世に伝えようとして、『般若心経』に残したのではないかというのです。
さらに、「受け容れる」ことを高めていくと、「感謝」になります。釈迦の教えは、結局は「感謝」につながるのです。仏教に精通していた著者は、『般若心経』の最大のメッセージとは、「苦」とは「思いどおりにならぬこと」であり、それを受け容れることが楽になることだったと喝破します。
思いが強ければ強いほど、つまり「これをどうしても実現したい」「これをどうしても手に入れたい」「どうしても思いどおりにしたい」と思う心が強ければ強いほど、実は「いま自分が置かれている状況が気に入らない」ということであるというわけです。
本書で著者の最も言いたいことは、「思いどおりにしよう、思いどおりにしたいと思えば思うだけ、逆に、『感謝』というところからは遠いところにいる。これが宇宙の法則であり、宇宙の真実です」という言葉ではないでしょうか。
わたしは最近、『図解でわかる!ブッダの考え方』(中経の文庫)という本を上梓しましたが、執筆するうえで本書の内容を大いに参考にさせていただきました。「ブッダの考え方」の核心とは、まさにこの「感謝」に他なりません。
「宇宙を味方にする最良の方法とは、ありとあらゆることに不平不満、愚痴、泣き言、悪口、文句を言わないこと。否定的、批判的な考え方でものをとらえないこと。これに尽きるのです」と著者は述べています。ブッダの教えは一見して哲学的で難しいように思われますが、じつはとてもシンプルです。そして、その教えの核心こそは著者が言うように「感謝」であると、わたしも思います。
平易な言葉で、多くの人々に「感謝」の大切さを説いてきた著者の御冥福を心よりお祈りいたします。合掌