第26回
一条真也
『降霊会の夜』浅田次郎著(朝日新聞出版社)
本書は、作家・浅田次郎の最新作です。
著者の作品を読んだのは、じつに久しぶりです。かつて『鉄道員(ぽっぽや)』『地下鉄(メトロ)に乗って』『月のしずく』などを夢中で読んだ頃を懐かしく思い出しました。いずれも不思議で哀しくて優しい物語でした。
帯には「罪がない、とおっしゃるのですか――」という作中の登場人物のセリフが記され、「死者と生者が語り合う禁忌に魅入られた男が魂の遍歴の末に見たものは・・・・・。至高の恋愛小説であり、一級の戦争文学であり、極めつきの現代怪異譚。まさに浅田文学の真骨頂!」と書かれます。
ネタバレになるので、詳しいストーリーを書くことは控えます。謎めいた女の手引きで降霊の儀式に導かれた初老の男が主人公です。彼の心には、ずっと気になっていた人物が2人いました。1人は小学生時代の同級生・山野井清で、もう1人は大学生のときの恋人・小田桐百合子でした。
裕福な家庭に育った主人公と違って、2人とも貧しい境遇にありました。
日本が高度成長にあって、国民みんなが豊かになっていった時期にさえ、貧しい人々はいました。格差社会にすでに存在していたのです。
本書を読んで強く感じるのは、「さよなら」の大切さです。別れの儀式の大切さと言ってもよいでしょう。特に、葬儀で死者としっかり別れを告げることの意味が述べられています。別れの儀式をおろそかにすれば、過去を切り離して前に進むことはできないのです。そして、死者はけっして恐怖の対象ではありません。そう、著者の描く幽霊は心優しい「優霊」です。
怪談とは「グリーフケア」文学でもあることを、わたしは確信しました。