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一条真也
「無縁社会を乗り越えて〜人と人の"絆"を再構築するために」
こんにちは、一条真也です。
1月18日、画期的なパネルディスカッションが開催されました。題して、「無縁社会を乗り越えて~人と人の"絆"を再構築するために」という新春座談会です。
会場は、新横浜の「ソシア21」です。司会には、佐々木かをり氏をお招きしました。そして、本日の出演者は、以下のメンバーでした。
奥田知志氏(日本ホームレス支援機構連合会会長、NHK「無縁社会」コメンテーター)、鎌田東二氏(哲学者、宗教学者、京都大学こころの未来研究センター教授)、島薗進氏(東京大学大学院人文社会系研究科教授)、山田昌弘氏(中央大学教授、内閣府男女共同参画会議・民間議員、そして、わたし一条真也(作家・経営者・平成心学塾塾長・北陸大学客員教授)も参加しました。
会場には超満員の200人以上の方々が集まり、マスコミ関係者も多く取材に来ていました。
なお、このイベントの主催は(社)全日本冠婚葬祭互助協会です。
無縁死の問題は、今後ますます深刻化する社会問題と捉えられており、冠婚葬祭互助会業界においても重要な課題となってきています。この座談会では、無縁死問題をどのようにして克服していくか、また冠婚葬祭互助会業界としてどのように関わり、対応していけばよいのか、といった点についてディスカッションを行いました。
冒頭に、出演者がそれぞれ自己プレゼンを行いました。
奥田知志氏は、最初に「北九州でホームレス支援が始まって23年となる」と語り、「無縁社会」がテレビ等で問題とされる以前から路上は無縁の世界であったと述べました。続けて、次のように発言しました。
多くの場合、困窮を「失業と住宅喪失」つまり「ハウスレス」に限定し、「ホーム」を重要視してこなかったように思う。国のホームレス施策も同様だった。そのような観点に立つ支援活動は、ハウスレスに対して「彼らには何が必要か」を模索した。家、衣服、食物、保証人・・・・。だが同時に「彼らには誰が必要か」という問いはより重要だった。路上において「畳の上で死にたい」という声を聞く。その声に応えアパート入居を支援する。これで安心と思いきや「俺の最期は誰が看取ってくれるだろうか」という新たな問いが生まれる。それは実に自然な「人間的問い」と言ってよい。そこに必要とされていたのは、他ならぬ「誰」、すなわち人の存在であった。
続いて、鎌田東二氏は、「修験道の開祖とされる役(エン)の行者に倣ってわたしは20年以上前から『現代のエンの行者』を名乗り始めました。『現代のエンの行者』の『エン』の字には、『役』でも『円』でもなく、『縁』を宛てます。つまり、現代の法力・験力・霊力とは、空を飛んだり、病気を治したりする呪術的な力よりも、個々が持てる力をさらに大きくつなぎ結び相乗させていく『縁結び力』、すなわち『むすびのちから』であるというのがわたしの考えです」と語りました。
そして、「無縁」にも消極的無縁と新しい縁の構築=新縁結びにつながる創造的・積極的無縁があると指摘しながらも、そのような「自由」と「新縁結び」に連動するような「無縁」の一面もしっかりと見通しつつ、現代の「無縁社会」を捉え直し、これからの社会構想を考えなければならないと訴えました。
次に、日本を代表する宗教学者である島薗進氏は、最初に「グローバルな資本主義と市場経済至上主義的な考え方の広がりによって、日本社会の構造も大きく変化してきている。1970年代あたりを転機として、地域社会とを盤とした仲間的な絆が後退していき、核家族が孤立し、また単身者も増大していった。
かつては、そうした小さな生活単位を包摂する機能を果たしていた、親族ネットワークや会社、宗教団体などの集団も次第に仲間集団としては弱体化し、限定された機能しか果たさないものに転換していった」と発言しました。
また、「こうした傾向が象徴的に現れたのは1995年で、阪神・淡路大震災では高齢者の被災が目立ち、オウム真理教事件では、家族の絆を断ち切り閉鎖集団に属することが進められたと説明しました。
「パラサイト・シングル」「格差社会」「婚活」という言葉の産みの親として有名な社会学者の山田昌弘氏は、3つの視点から語りました。
1つめの視点は「アイデンティティ」で、自分が「大切にされ、必要にされている」と感じていること、人間が幸福に生きるためにはこの感覚が必要であると述べました。
2つめの視点は「日本におけるアイデンティティの歴史的変遷」です。
3つめの視点が「無縁社会」です。「無縁社会」とは、自分を大切にし必要とされる存在がいない人が増える社会であり、自分を大切にし必要とされる存在を失う可能性が増大する社会であると述べました。
最後に、わたしは以下のような話をさせていただきました。
2010年より叫ばれてきた「無縁社会」の到来をはじめ、現代の日本社会はさまざまな難問に直面しています。その中で冠婚葬祭互助会の持つ社会的使命は大きいと言えます。戦後に互助会が成立したのは、人々がそれを求めたという時代的・社会的背景がありました。
もし互助会が成立していなければ、今よりもさらに一層「血縁や地縁の希薄化」は深刻だったのかもしれません。つまり、敗戦から高度経済成長にかけての価値観の混乱や、都市部への人口移動、共同体の衰退等の中で、何とか人々を共同体として結び付けつつ、それを近代的事業として確立する必要から、冠婚葬祭互助会は誕生したのです。
ある意味で、互助会は日本社会の無縁化を必死で食い止めてきたのかもしれません。しかし、それが半世紀以上を経て一種の制度疲労を迎えた可能性があると思います。制度疲労を迎えたのなら、ここで新しい制度を再創造しなければなりません。すなわち、冠婚葬祭の役務提供に加えて、互助会は「隣人祭り」の開催によって、社会的意義のある新たな価値を創るべきであると考えます。
佐々木氏の司会進行が素晴らしかったせいもあって、活発な意見が交換され、パネルディスカッションは盛況のうちに幕を閉じました。
会場のみなさんも熱心に聴いて下さり、必死でメモを取っている方も多くいました。
なお、この座談会の内容は映像に残し、全互協のHPで配信される予定です。
その映像をもとに広くアンケートを実施し、その結果を報告書にまとめます。
また、単行本としても出版されることが決定しています。
この座談会が、無縁社会を乗り越え、新しい「絆」をつくる礎となることを願っています。
2012.2.15