第48回
一条真也
『女性のための般若心経』家田荘子著(サンマーク出版)
著者は、映画化もされた『極道の妻たち』(青志社)などで知られる作家ですが、高野山真言宗僧侶でもあります。
1999年に高野山真言宗最福寺で得度し、2007年に高野山大学で伝法灌頂を受け僧侶となりました。本書は、そんな仏門に入った著者が、女性のために『般若心経』の知恵を説く本です。
著者は子どもの頃、いじめられていました。大人になって作家になったときは、同業者の妬みを買い、マスコミからもひどいバッシングに遭ったそうです。恋人に捨てられて、号泣したこともありますし、辛い離婚も経験しました。
これまでに何度も「死にたい」と思った著者は、人生の「悲しみ」を知り尽くしているように思います。だからこそ、エイズ患者、売春少女、そして極道の妻たちの「悲しみ」に触れることができたのかもしれません。
「慈悲」とは「慈しみ」と「悲しみ」のこと。本当の「悲しみ」を知っている著者だからこそ、「慈悲」というものを体で感じることができるのでしょう。
そんな著者が、さまざまな悩みを抱えた女性読者にアドバイスをします。その言葉は、「悲しみ」を知り尽くした者だけあって説得力に富んでいます。
著者は、これまでに歩きで六巡、車で二巡、四国霊場の遍路修行をしたそうです。遍路は、いつも金剛杖とともにありました。金剛杖は著者にとって弘法大師そのものであり、遍路のあいだ、いつも同行二人だったのです。
さらに、著者は『般若心経』もまさに心の同行二人ではないかと考えています。そして、「私たちは、生を受けて以来、楽しいこと、嬉しいこと、悲しいこと、辛いことなどに出逢っています。壁にぶつかったり、行く道が判らず立ち止まってしまったりと、心が何かを必要としているとき、般若心経は、たったの262字でもって、生きていくための知恵を与えてくださるのです」と述べます。
本書の「あとがき」の最後は次のような言葉で閉じられています。
「私は歩き遍路をしながら、四国の皆さんにたびたび、思いやりの大切さを教えられています。人に優しくし、優しくされて、お互いに思いやって、皆で一緒に彼岸へ行きましょう」
本書は、悩める女性のための具体的なアドバイスに満ちています。その一方で、本書は男性が読んでも心が軽くなる好著でもあります。わたし自身も本書を読んだ後、スッキリして、軽やかな気分になれました。