第47回
一条真也
『祖父が語る「こころざしの物語」』

 加地伸行著(講談社)

 最近、わたしは『世界一わかりやすい「論語」の授業』(PHP文庫)という本を書きました。大学の客員教授として、日本人や中国人を相手に「孔子研究」の授業を担当しています。
 日々、自分なりに『論語』を中心とした儒教の思想を学んでいますが、その最大の師が本書の著者である加地伸行氏です。わが国を代表する儒教学者であり、わたしの尊敬する方です。
 本書は、大学教育通信教育を柱とするZ会の機関誌に「こころの物語」として連載された文章を集めたものです。75歳になった著者が、まるで自分の孫たちに語りかけるように、「人間の器を広げる人生の授業」を繰り広げています。
 「はじめに」で、著者は自分の幼い孫を抱くと、自然と涙がにじんでくると述べます。小学生の孫たちと出会うときは、「よく来た、よく来た」と言いながら強く抱きしめるそうです。
 著者は、「高齢の私は、もう欲も得もなくなっている。私のこの生あるかぎり、次の世代の人たちに、私の想いを伝えたい、伝えておきたい、という気持ちだけである」と述べ、読者を自分の孫として、「こころざしの物語」を語ります。
 では、何を語るのか。それは、「若いあなたの前にある人生のさまざまな道において、どの道を選ぶべきか、その助言をしたい」というのです。
 あの東日本大震災がもたらした最大のものは、〈家族の絆〉の問題でした。そのためか、家族の絆、ひいては日本人の絆、人間の絆ということが語られるようになってきています。著者は、それはそれで正しいのだが、では家族の絆とは、いったい何なのか、ということについては、あまり語られておらず、無責任ではないかと述べます。
 〈家族の絆〉が大切と言うのならば、その正体とは何かを語るべきであるとして、次のように述べるのです。
「まず私が語ろう。私が〈家族の絆〉とは何かを語りつつ、それを通じて、人の在りかた、世への見かた、友との関わりかた・・・・・・について語ってゆきたい。祖父が孫に語るようにして」  そして、著者は「利己主義は敵か味方か」「他者とは何か」「親とは何か」「儒教における家族」「友情について」「君子と小人と」「エリートとは何か」という七つのテーマを語りながら、〈家族の絆〉というものを鮮やかに浮き彫りにしていくのです。
 高校生向けの内容ですが、大人であるわたしの心にも大いに響きました。