第22回
一条真也
『マスカレード・ホテル』東野圭吾著(集英社)
読書家で知られるゼンリンプリンテックスの大迫益男会長から「ホテルのことをよく描いているから」と薦められた本です。なんでも、当代一のベストセラー作家である著者の作家生活25周年記念作品だとか。表紙カバーにはヴェネチアの仮面舞踏会で使われるようなマスカレードが描かれており、帯には「完璧に化けろ。決して見破られるな。」と大きく書かれています。
てっきり一流ホテルで開催される仮面舞踏会の話かと思いましたが、読んでみるとまったく違う内容でした。東京都内で起きた不可解な連続殺人事件が描かれたミステリーです。現場に残されたメッセージを解読すると、次の犯行現場として、ある超一流ホテルが浮かび上がってきました。
殺人を阻止するため、警察はホテルへの潜入捜査を開始します。一課の刑事である新田浩介はホテルマンに扮し、フロントで働く才媛・山岸尚美とコンビを組みます。2人は、最初はいがみ合いつつも互いに認め合っていくのでした。ネタバレになってしまいますので、ストーリーを詳しく書くことは遠慮します。しかし、冒頭の1ページ目からいきなり物語の世界に没入させる著者の筆力は「さすが!」だと思いました。その後も、ぐんぐん引き込まれ、最後まで一気に読めました。
ホテルを舞台としているだけあって、ホテルのカスタマーサービスのあり方、クレーマー対応の事例などが参考になりました。フロントに配属された新田刑事が、ホテルマンとして成長していく過程などは、そのまま新人ホテルマンの研修に使えます。「ホテル小説」としては第一級の部類に入ると思います。トリックよりも心理描写で読ませるミステリーの秀作でした。