第21回
一条真也
『ジェノサイド』高野和明著(角川書店)
今年、ものすごく話題となったエンターテインメント大作です。
著者は1964年生まれで、もともと映画監督を志望していたそうです。
創薬化学を専攻する大学院生・古賀研人のもとに、死んだはずの父親か
ら1通のメールが届きます。それを発端に、研人は父の秘密実験室に辿り着きます。ウイルス学者の父は、そこで何かを研究していたようです。
同じ頃、特殊部隊出身の傭兵であるジョナサン・イエーガーの幼い息子は不治の難病に冒されていました。イエーガーは、息子の治療費を稼ぐため、ある極秘の依頼を引き受けます。暗殺任務と思しき詳細不明の作戦ですが、事前に明かされたのは「人類全体に奉仕する仕事」ということだけでした。暗殺チームのリーダーとなったイエーガーは、アフリカ大陸に渡って戦争状態にあるコンゴのジャングル地帯に潜入します。
ここから息もつかせぬ波乱万丈のドラマが展開するのでした。一読して、瀬名秀明の『パラサイト・イヴ』や貴志祐介の『天使の囀り』を連想しました。いわゆる最先端の科学的知識を駆使したサイエンス・ホラーです。
それにしても、新薬開発の問題をはじめ、アメリカ政治、米中関係、インテリジェンス、情報セキュリティ、傭兵、アフリカの民族紛争、少数部族、カニバリズム、そして人類進化まで、じつに幅広いテーマが散りばめられ、かなりのリアリティを持っています。もちろん、タイトルにもなっている「ジェノサイド」というメインテーマにしても。著者の歴史観には賛否両論ありますけれども、間違いなく面白い小説です。590ページの大冊ですが、一気に読めます。秋の夜長にぜひお読み下さい。