2011
12
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「お客様に何を贈ることができるか

 ホスピタリティは心のギフトだ!」

贈答の日本文化

 お歳暮の季節ですね。また、12月といえば、クリスマスです。みなさんも、家族や恋人や友人にさまざまなプレゼントをするのではないかと思います。贈りものをしたり、返されたり・・・・・・考えてみれば、実に不思議な行為ですね。
 『贈答の日本文化』伊藤幹治著(筑摩書房)という本があります。著者の伊藤氏は民俗学者で、現在は国立民族学博物館の名誉教授を務めています。
 伊藤氏は「贈答とは単なるモノのやりとりではない。特定の機会に贈りものをやりとりする儀礼的行為である。毎年、中元や歳暮の季節が訪れると、贈答品が全国各地を頻繁に往き来する。子どもの誕生、結婚、葬式などの改まったハレの日、あるいは病気、地震や洪水などの自然災害、旅行、転居、新築などの折にも、見舞いやお祝いといってはモノが贈られ、お返しがされる。この国の人びとは、毎年こうした贈りもののやりとりを繰り返している」と述べています。

日本人の贈答の習慣

 日本人における贈答の習慣は、すでに中世後期の武家社会に成立していました。伊勢貞親という室町幕府の要人が『伊勢貞親教訓』という書物に、「他家より人の物くれたらんには、相当の贈るほどの返しをすべし」と書いています。
 贈りものを貰ったら、それに見合うだけのお返しをしなければならないということですね。当時の武家社会では、「均等交換」が行われていたわけです。こうした贈答の習慣は、中世後期以降、いろいろと変化を繰り返しながらも、近世・近代を経て現代にいたります。現代日本においては、さまざまな贈答が行われています。
 まずは、中元や歳暮、結婚式や葬式のときの贈りものとお返し。そして、クリスマスやバレンタインデーやホワイトデーなどの贈りもののやりとり。
 さらには、社会のグローバル化やボーダレス化にともなって寄付行為、ボランティア運動、臓器移植、開発援助なども広い意味での贈りものにあたるでしょう。

贈答文化の変化

 日本の贈答文化には、明治維新のとき、大きな変化がありました。
 明治維新以降、東アジアの後進国であった日本は、国民国家の形成をめざしました。そのため、欧米先進諸国の政治、経済、法律などの諸制度の導入に努めたのです。そして、この国に平準化された共通文化を創出しようとしていました。
 共通文化の創出というのは、為政者による日本の儀礼文化の破壊という一面があると言えるでしょう。
 儀礼文化破壊の危機は、明治期だけでなく終後にも訪れました。戦後、国民生活の合理化を促進するために、いわゆる政府主導の生活改善運動が展開されたのです。
 全国の自治体の協力を得て、婚礼の簡素化や香典の廃止などが推進されました。その結果、冠婚葬祭の慣習および贈答習俗の一部に変化が生じました。

互酬性の原理

 しかし、生活改善運動は最終的に失敗しました。香典返しの撤廃、香典の低額一律化などに一定の効果をあげた地域もありましたが、逆に冠婚葬祭の簡素化が一時的な現象にすぎなかったり、あるいはまったく実施されなかったりしたところが多かったそうです。
 なぜ、生活改善運動は思ったほどの効果を上げなかったのでしょうか。伊藤氏は、その理由を次のように述べています。
 「生活改善運動を促進した為政者側が、贈答とよばれる贈りもののやりとりが近代以前からながいあいだ、日本社会に根をおろしている返礼の期待と返礼の義務という、人間社会に普遍的な互酬性の原理に根ざした慣行であることを十分に認識していなかったからであろう。互酬性の原理には、国家権力がいかに介入しようとしても容易にほころびを生じないしたたかさがある」

贈答するヒト

 まさに、贈答という行為は人間にとって地域を超えた普遍性を持っていたのです。人間とは「贈答するヒト」なのですね。
 現在、贈与はグローバル化社会を迎えて、実に多彩な広がりを見せています。贈与とは、私的贈与と公的贈与に分けられます。
 毎年、年末の贈答の季節に行われる「歳末たすけあい」「海外たすけあい」、あるいはユニセフ(国際連合児童基金)の活動などが公的贈与です。ボランティア活動、献血、臓器移植、開発援助などは、いずれも公的贈与ということになります。
 これらは、いずれも不特定多数の「見知らぬ人びと」に対する寄与もしくは寄付です。
 さらには、ボランティア活動は「労働贈与」、献血は「血液贈与」、臓器移植は「臓器贈与」と言い換えることができます。

お客様に心のギフトを

 現在、日本の贈答文化、ひいては儀礼文化は大きな曲がり角に来ています。見返りを求めない公的贈与がみられるようになってきたのです。恵まれない子どもたちに贈りものをする「タイガーマスク運動」などが好例です。
 都市ではかつて血縁、地縁によって支えられていた人々の絆が失われ、孤独で不安定な生活を強いられています。いわゆる「無縁社会」です。わが社は血縁、地縁の再生を試みながら、新しい「有縁社会」づくりをめざしていますが、「見返りを期待しない公的贈与」というものが今後重要になります。
 そして、わたしたちの最大の商品である「ホスピタリティ」こそはお客様への心のギフトであり、結果としてわが社を応援して下さる方が増えるのではないでしょうか。

 贈りものおくりおくられ
     人びとの心潤い絆強まる  庸軒