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一条真也
「人は死なない〜本当に、人は人に助けられている」
こんにちは、一条真也です。
彼岸の中日となる「秋分の日」に、「死」と「死者」についての本を読みました。
非常に素晴らしい内容で感動したので、みなさんにもご紹介します。
『人は死なない』矢作直樹著(バジリコ)という本です。
新聞の書籍広告で見つけた本ですが、タイトルに惹かれて注文しました。
「人は死なない」とは、わたしの口癖の一つでもあるからです。
本書には、「ある臨床医による摂理と霊性をめぐる思索」というサブタイトルがついています。著者は、東京大学大学院医学系研究科・医学部救急医学分野教授にして、さらに東京大学医学部附属病院救急部・集中治療部部長です。それにしても肩書きが長い! そして、凄い!
何といっても、現役の東大医学部の教授で臨床医である著者が「霊」の存在を確信し、「人は死なない」と言い切ったところに、この本の最大の価値があります。
著者は、医師という仕事を通して死と生に直視してきた経験、大好きな登山で二度も死にかかった経験を語りながら、西洋医学では説明のつかない事実のエピソードを紹介します。また、これまでの宗教研究やスピリチュアリズム研究の事例なども目配りよく豊富に紹介しています。
著者いわく、本書のモチーフはきわめてシンプルなものだそうで、「人間の知識は微々たるものであること、摂理と霊魂は存在するのではないかということ、人間は摂理によって生かされ霊魂は永遠である、そのように考えれば日々の生活思想や社会の捉え方も変わるのではないかということ、それだけです」と「あとがき」に記しています。
本書でもっともわたしの心を打ったのは、著者の実母が孤独死をされて、変わり果てた姿で発見されたというくだりでした。亡き母の葬儀を営むにあたって、著者が多くの葬儀社の中からいちばん遺体の扱いが丁寧で良心的な業者を選んだというくだりも考えさせられました。
著者の亡くなったお母さんは、3日間浴槽に水没しておられたそうです。
検視に立ち会ったときは著者のみであり、発見者の弟さんを含めて他の身内は誰も故人の顔を見ていませんでした。その故人の顔を、葬儀社のスタッフがさりげなく「白い布で覆って棺の小窓には出ないようにしましょう」と言って気遣ってくれたそうです。
著者が「遺体の顔はどうするんだろう」と心配しかけたまさにそのとき、心中を読み取ったかのごとく絶妙のタイミングだったとか。
仕事とはいえ、その心配りに本当に感心したという著者は、次のように述べています。
「思えば、煩雑な諸手続きを代行し、傷んだ遺体をきれいに整えてくれた葬儀社というプロフェッショナル集団のおかげで、どれほど助かったことか。本当に、人は人に助けられている。我々医師は、患者やその家族にこれほどの心配りができているだろうかと、思わず考えさせられました」
わたしは、現役の東大医学部の教授が葬儀社を「プロフェッショナル集団」としてとらえ、"おくりびと"の仕事をここまで認めてくれていることを知って、非常に感動しました。
しかし、その直後の文章で、わたしはさらに感動することになります。
著者は、本書の138ページで次のように述べているのです。
「遺体というのは不思議なものです。
遺体は遺体でしかなく、単なる『モノ』でしかないわけであり、したがって執着するような対象ではないということを頭では理解していても、愛する者にとっては抜きがたい愛着を感じずにはいられないというのが、偽らざる本心です。
おそらく、遺体への配慮は理屈ではなく、情として自然に出てくるものなのでしょう。
『愛する人を亡くした人へ』という好著があり、自ら冠婚葬祭の会社を営んでいる一条直也氏は本の中で、葬儀とは『成仏』という儀式(物語)によって悲しみの時間を一時的に分断し、その物語の癒しによって、愛する人を亡くして欠けた世界を完全な状態にもどすこと、と願っています。私も、まったくその通りと思うのです」
このように、わたしの著書が突然紹介されて、非常に驚くとともに感動しました。
ただ、まことに残念なのは、わたしの名が「一条直也」と間違っていることでした。
「一条直也」は、「柔道一直線」の主人公ですよぉ!(涙)。
ということをブログに書いたところ、数日してから、なんと著者の矢作直樹氏から丁重な手紙が届きました。矢作氏は、わたしのブログを読まれたようです。
まず、わたしの名前が違っていたことをお詫びされ、こちらのほうが恐縮しました。
次回の増刷時に誤植も訂正して下さるそうで、ひと安心です。
それにしても、矢作氏の「礼」を重んじる姿勢には頭が下がりました。
東大病院の緊急医療のトップとして目の回るような忙しさのはずなのに、わたしごときに丁重なお手紙を書いて下さったのです。 また、わたしに対して過分なお言葉をたくさんお書き下さいました。
あくまで私信ですので、そのすべてを公開することはできません。
でも、一箇所だけ、わたしの心に大きなエネルギーを与えてくれた言葉を紹介させていただきたいと思います。矢作氏は、次のように書いて下さいました。
「一条様の著作はかねてより拝読させていただいており、『愛する人を亡くした人へ』では、その全体の斬新な文章構成、たいへん深い内容を読み手の心にそうようなやさしくわかりやすい文章で表現されていたことに感心させられ、いつか自分が文章を書くときがあったら、このような文章が書けたらと思っておりました」
わたしは、これを読んで、本当に嬉しく、また有難く感じました。
グリーフケアに対するわたしのささやかな想いを、東大医学部教授という日本の医学界のトップにおられる方に多少なりとも評価していただき、感無量です。
最後に、矢作氏の書かれた『人は死なない』は万人が読むべき本であり、わたしも多くの人々に薦めていきたいと思っています。特に葬祭関係者は必読だと思います。ぜひ、お読み下さい!
2011.10.15