第6回
一条真也
「忘れてはいけない心」
今回は、山形県東根市に住むEちゃんという12歳の女の子からの「忘れてはいけない心」というエピソードをご紹介します。
前回ご紹介した「私の妹」のDちゃんも同じ山形県東根市の女の子でした。どうやら、DちゃんとEちゃんは同級生のようですね。
Eちゃんは、お母さんとの二人暮らしです。現在住んでいるアパートに2年くらい前に引っ越してきました。そのアパートの住人にEちゃん母娘が「あゆみばぁ」と呼ぶ女性の住人がいました。
なぜ、「あゆみばぁ」なのでしょうか。
あゆみばぁは、母子家庭で三人暮らしでした。Eちゃんが小学生の時、2学年下に「あゆみ」くんという男の子がいて、そのおばあちゃんだったので、「あゆみばぁ」と呼んでいたのです。
あゆみばぁは、まだ60そこそこでバリバリ元気な人でした。毎朝、小学校の登校班の見送りにEちゃんのお母さんが出ると、あゆみばぁも一緒に出て来ます。
ところが、あゆみばぁは見送りで忙しい時間に孫の話、近所の話などを始めてしまい、それがまた長いのです。Eちゃんのお母さんには仕事があったので、見送りが終わったら働きに行かなくてはなりません。それでも、あゆみばぁはそんなことにお構いなしで話し続けるので、お母さんはちょっと困った時もあったそうです。
あゆみばぁは、何でも知っている人でした。そして、とても優しい人でした。お母さんの体の具合が悪くなった時は声をかけてくれたり、野菜や果物、手作りの料理をタッパーに入れて持って来てくれたりしました。
また、Eちゃんが学校から一人で帰ることになった時、「何かあったら、おばちゃんの家に逃げてくるんだよ」と言ってくれました。Eちゃんも同じアパートにあゆみばぁがいると思うだけで、心強い気持ちになったそうです。
Eちゃんは、「今の世の中、人は人、自分は自分という中で同じアパートというだけで、これだけ温かい心を持つ人はめずらしいと思います。山形は田舎なので、近所づきあいが残っているような気がします。忘れてはいけない心だと思います」と書いていました。
声の大きなあゆみばぁが引っ越してからは、静かなアパートになりました。でも、この前、あゆみばぁが野菜と果物を持って来てくれました。お母さんは「ありがたいねぇ」と喜んでいたとか。あゆみばぁとEちゃん母娘との付き合いは、これからも続きそうです。