第43回
一条真也
『困ってるひと』大野更紗著(ポプラ社)
「難病女子による、画期的エンタメ闘病記!」として、いま大変話題の本です。
この世に困っている人は多いでしょうが、本書の著者ほど困っている人はいません。「はじめに」の冒頭で、著者は次のように自己紹介を行っています。
「わたしは、この先行き不安、金融不安、就職難、絆崩壊、出版不況、鬱の嵐が吹き荒れ、そのうえ未曾有の大災害におそわれた昨今のキビシー日本砂漠で、ある日突然わけのわからない、日本ではほとんど前例のない、稀な難病にかかった大学院生女子、現在26歳」
著者の病気は「筋膜炎脂肪織炎症候群」で、「皮膚筋炎」という、これもまた難病を併発しています。自己免疫疾患の専門医でないかぎり、病名からは、どんな病気かの推測はほとんどできません。
しかし著者がいかに困っているかは、次の一文からもわかるでしょう。
「この原稿を打ち込むキーをたたいている今も、1日ステロイドを20ミリグラム服用し、免疫抑制剤、解熱鎮痛剤、病態や副作用を抑える薬、安定剤、内服薬だけで諸々30錠前後。目薬や塗り薬、湿布、特殊なテープ、何十種類もの薬によって、室内での安静状態で、なんとか最低限の行動を維持している。
それでも症状は抑えきれず、24時間途切れることなく、熱、倦怠感、痛み、挙げればきりのないさまざまな全身の症状、苦痛が続く」
このように著者が抱えている難病の厄介さはハンパではありません。それを深刻ぶらずに、暗くならずに、著者はきわめて明るくユーモラスな言葉で綴ってゆきます。困難に困難が重なる自身の境遇について「試練のミルフィーユか!わたしゃブッダか!」とひとり自分に突っ込みを入れた後、このように述べます。
「難病患者となって、心身、居住、生活、経済的問題、家族、わたしの存在にかかわるすべてが、困難そのものに変わった。当たり前のこと、どうってことない動作、無意識にできていたこと、『普通』がとんでもなく大変」
それこそ著者にとって、毎日の毎瞬間が「言語に絶する生存のたたかい」であるというのです。発病してからの彼女が生きた世界は、はっきり言って、前人未到の道でした。人どころか、獣も通った跡がないような道を自ら開拓しつつ、著者は今日まで生きてきたのです。そんな体験からの言葉には、圧倒的な迫力と説得力があります。
世の困っている人たちに読んでほしい本です。生きる気力が湧いてきます!