第17回
一条真也
『バタフライ・エフェクト 世界を変える力』
アンディ・アンドルーズ著、弓場隆訳(ディスカバー・トウェンティワン)
いわゆる「複雑系」のシンボルともなっている「バタフライ効果」についての本です。薄い本ですが、内容は濃いです。穀物の品種改良によって20億人を飢餓から救ったとしてノーベル賞を受賞したノーマン・ボーローグ、彼を起用した副大統領ヘンリー・ウォレスなど、誰かに影響を与えた人物たちを連綿とさかのぼっていきます。そして、一人ひとりの小さな行動が、世界に大きな影響を与えることを説くのです。
「バタフライ効果」とは何でしょうか。蝶がひと舞いすると、たとえ小さいとはいえ空気の流れが生じますね。すると、偶然のゆらぎが空気に与えられることになります。通常なら、そのゆらぎは空気の粘性のために何の痕跡も残さず消えてしまいます。
でも、ある種の条件が満たされているとき、この空気の小さな流れによって周辺に風が引き起こされることもあるでしょう。さらにこの風が周囲の日照条件や気圧配置によって、いっそう強い風に発達するかもしれません。ときには、その風自体が原因となって気圧配置を変化させ、突風が吹きまくるようになる可能性もあるでしょう。この突風がハリケーンに成長して、最終的に摩天楼を吹き倒すといった可能性もあるわけです。
これはけっしてホラ話ではありません。いわゆる「非線形作用」は、条件さえ整えば、蝶のひと舞いがハリケーンにまで発達しうる物理過程を現実に引き起こしうることが科学的にも証明されているのです。それが「複雑系」というものなのです。本書を読むと、この世界がいかに不思議で、いかに可能性に満ちているかがよくわかります。