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一条真也
「隣人愛の実践者〜自分自身の経験が他人への共感となる」
こんにちは、一条真也です。
最近、素晴らしい方と知り合い、お付き合いさせていただいています。
NPO法人・北九州ホームレス支援機構の理事長である奥田知志さんです。
わが社は、同法人の趣旨に賛同させていただいています。
奥田さんは、東八幡キリスト教会の現役の牧師さんです。
滋賀県大津市の出身で、関西学院大学神学部大学院修士課程および西南学院大学神学部専攻科を卒業されました。学生時代に訪れた大阪市・釜ヶ崎(現:あいりん地区)の日雇い労働者の現状を目の当たりにし、ボランティア活動に参加したことがきっかけで、牧師の道を歩み始めたそうです。
現在、わが国のホームレス支援の第一人者として非常に有名な方です。
作家の平野敬一郎さんと一緒に講演活動を行い、脳科学者の茂木健一郎さんが司会を務めるNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」にも出演されています。
わたしが奥田さんのことを初めて知ったのは、NHKで昨年放映された「無縁社会」をテーマにした討論番組でした。何人かのパネラーの中で、奥田さんが「どうすれば、無縁社会を乗り越えられるのか」について、最も的確な意見を述べている印象でした。
わたしは、直感的に「この人は本物だ」と思いました。
日々、多くのホームレスの方々と接していく中で「人と人とのつながり」について体験を通して考え抜いている方だと感じました。 それは、日々、「死者の尊厳」や「愛する人を亡くした人の悲しみ」について、体験を通して考え続けているわたしにも通じることでした。
わたしも「人と人とのつながり」を再生し、新しい「有縁社会」を築くために「隣人祭り」を行っています。ということで、それ以来、奥田さんに早くお会いしたかったのですが、お互いに多忙でもあり、やっと4月半ばにお会いできました。
そのとき、奥田さんが中心となって進めておられる「絆プロジェクト北九州」について説明を受けました。
官邸ホームページにも取り上げられたプロジェクトですが、東日本大震災の被災者を北九州市に受け入れて総合的にサポートしようという計画です。
北九州市へ避難してこられた方々が社会的に孤立することがないよう、被災者に対して、住宅確保や生活物資の提供から心のケアまで、自立・生活再建に向けた、公民が一体となっての「新しい仕組みづくり」です。民間の力を最大限に活用したこの仕組みは、これからの地域福祉を推進する力として期待されている、「新しい公共」による先進的な取り組みとなります。
北九州市や北九州商工会議所も、最大限の協力をするため、いち早く担当ラインを立ち上げました。それぞれの組織がしっかりと役割を果たし、被災者にとって北九州市が「第二のふるさと」ともなるよう、心のぬくもりが感じられる支援を一体となって行うというプロジェクトなのです。
わたしは、素晴らしいプロジェクトだと思いました。
それにしても、プロジェクトを熱く語る奥田さんの真剣な眼差しには感銘を受けました。
よく考えれば、東日本大震災では多くの方々が家を失うという「ホームレス」状態になったわけであり、まさにホームレス支援の第一人者である奥田さんの出番です。
「ハウスレスとホームレスは違います」という奥田さんの言葉も印象に残りました。家をなした人はハウスレスだけれども、絆をなくした人はホームレスだというのです。多くの人々が「絆」を取り戻し、「有縁社会」を再生するのが、わたしの願いです。
奥田さんと話していて、わたしは社会運動家で作家だった賀川豊彦を連想しました。
賀川豊彦も牧師でしたが、貧しい者たちを救済するために神戸のスラム街に飛び込みました。
賀川豊彦こそは偉大な「隣人愛の実践者」であったと思います。
そして、奥田知志さんもまた現代における「隣人愛の実践者」であると思いました。
さて「絆プロジェクト北九州」ですが、現在ではすでに数十世帯が東北から北九州に移住して来られ、新生活をスタートさせているそうです。
住まいは整い、家具や家電も寄付で十分に用意されています。
後は、移住された方々の仕事が必要になってきます。
その件で奥田さんから具体的な相談を受け、わたしは快諾いたしました。
ぜひ、被災者の方々にわが社に入社していただきたいと思っています。
「絆プロジェクト北九州」は全国的にも注目度が高く、先日も「朝日新聞」の全国版で大きく紹介されました。記事の最後には、わたしも「雇用に前向きな冠婚葬祭会社の社長」として紹介されています。
そして、「地域の絆で受け入れる趣旨に賛同した。震災で受け入れる側の地域力も試されている」という、わたしの発言が掲載されています。
もうすぐ、被災者の方々の採用面接を行いますが、1人でも多くの方々が入社いただけることを楽しみにしています。けっして、「当社の人員は間に合っているのだけど、困った時はお互い様だから採用しましょう」ではありません。わたしは、大震災の被災者だからこそ採用したいのです。というのは、地震や津波や放射能で極限の体験をされた方々にとって、その体験は「強み」となりうると思っているのです。
極限の体験をされたからこそ、他人の痛みがわかる方が多いのではないかと期待しています。
冠婚葬祭の業務ももちろんですが、今後ますます重要になっていくグリーフケア・サポートのスタッフなどは、日々、愛する人を亡くした人々に接します。
そのとき、自分自身が経験してきた「悲しみ」や「苦しみ」が、他人への共感となって、「思いやり」となり、さらには「癒し」になるように思うのです。被災者の方々によるグリーフケア・サポートが実現すれば、「隣人の時代」のシンボルになると思っています。
2011.7.15