25
一条真也
「手塚治虫のブッダ

 〜差別を憎み、生老病死の問題に悩んだ若き日」

こんにちは、一条真也です。
現在、アニメ映画「手塚治虫のブッダ ―赤い砂漠よ! 美しく―」が全国ロードショーで公開されています。
日本マンガ界最大の巨匠である故・手塚治虫が10年を費やして完成させた大作をアニメ映画化したものです。
この映画は、(財)全日本仏教会さんが推薦団体となっています。わが(社)全日本冠婚葬祭互助協会も全面サポートさせていただいています。 
以前、(社)全互協は「おくりびと」のチケットを数万枚単位で販売協力し、アカデミー賞受賞に至る中で支えた実績があります。
全互協の広報・渉外委員長であるわたしは、昨年12月20日にこの映画の試写を観ることになりました。その日、東京・有楽町にある東映の映画館に行きました。するとスタッフの方が出てきて「こちらです」と、隣にある東映の本社に案内されました。エレベーターで7階に上がり、試写室に入りました。
映画会社の試写室に入ったのは初めてでした。
席に座っていると、わざわざ東映の岡田祐介社長が来られて、「朝早くから、ありがとうございます。どうぞ、よろしくお願いいたします」との御挨拶を受けました。映画人というと何となく無頼なイメージが強かったのですが、来客に礼を尽くされる岡田社長の姿を見て、少し考えが変わりました。
さて、映画の主人公である「ブッダ」ことゴータマ・シッダールタは、世界宗教である仏教を開いた人物です。仏教はまことに多様な展開をした宗教ですが、その基本的性格はブッダによって定められ、継承され、発展して今日におよんでいるのです。
「ブッダ」とは、パーリ語でもサンスクリットでも「めざめた者」を意味しますが、北部インド、現在のネパールでシャカ国の王子として生まれました。
そのブッダは、いわゆる「世界四大聖人」の一人です。
1988年には『世界の四大聖人』というコミックが中央公論社から出版されています。
本来の四大聖人とはブッダ・孔子・ソクラテス・イエスなのですが、この本では、「孔子・シャカ・キリスト・マホメット」となっています。
注目すべきは、この本が「手塚治虫編」となっていることです。この翌年に、マンガの神様・手塚は亡くなっていますが、大作『ブッダ』を執筆したり、手塚プロが製作したアニメーションの「聖書物語」においてモーセやイエスの生涯を描いたりと、手塚治虫には聖人に対する関心の深さがうかがえました。きっと、発想が人類的というか、とにかくスケールが大きい人だったのでしょう。
ちなみに、わたしはブッダを筆頭に、孔子・老子・ソクラテス・モーゼ・イエス・ムハンマド・聖徳太子の8人の偉大な聖人を取り上げた『世界をつくった八大聖人~人類の教師たちのメッセージ』(PHP新書)という本を書いたことがあります。
この映画「手塚治虫のブッダ」は三部作のようです。本作ではブッダが誕生して、青年時代に「生老病死」を知り、出家するところまでが描かれていました。
まず、アニメの声優陣が非常に豪華でした。
シャカ国の王子シッダールタに吉岡秀隆、シャカ国を攻撃するコーサラ国の武将チャプラに堺雅人、ナレーションおよびチャプラの母に吉永小百合、シッダールタの父に観世清和、コーサラ国の美しい姫マリッカに黒谷友香といったところです。
なかなかドラマティックなストーリーでしたが、シャカ国およびコーサラ国の兵士の姿がどう見てもローマやカルタゴの兵に見えました。
また、古代インドにはあったはずのないコロッセオのような円形競技場も出てきます。 
兵士たちが乗っているインド象には牙が生えていて、どう見てもアフリカ象でした。
つまり、古代インドを舞台としながらも、古代ローマも彷彿とさせるような、なんというか無国籍性のようなものを感じました。登場人物も、シッダールタよりも存在感のあったチャプラをはじめ、架空の人物が多かったです。また、王子シッダールタが奴隷(シュードラ)の娘ミゲーラと恋に落ちるなど、非常に大胆なストーリー設定もありました。
原作者の手塚治虫は、1980年の月刊「コミックトム」のインタビューで次のように語っています。
「シッダールタのありがたさとか、シッダールタの教えよりも人間そのものを掘り下げたい。仏陀の生きざまを、ぼくなりの主観を入れて描きたかった。しかし、仏陀の生きざまだけでは、話が平坦になってしまうでしょう。その時代のいろいろな人間の生きざまというものを通して描かないと、その時代になぜ仏教がひろまったか、なぜシッダールタという人があそこまでしなければならなかったか、という必然性みたいなものが描けません。ですから、仏陀とまったく関係のないような人を何十人も出して、その人たちの生きざまもあわせて描く。そのことによって、あの時代にどうしても仏教が必要だったというところまでいきたいのです」
その日の試写会の会場には、一見して僧侶とわかる方々がたくさんいました。
あのお坊さんたちの目に、差別を憎み、生老病死の問題に悩んだ若き日のブッダの姿はどのように映ったのでしょうか。
現在、「手塚治虫のブッダ ―赤い砂漠よ! 美しく―」は全国のシネコンや東映系映画館で公開中。
みなさんも、ぜひ御覧下さい。
わが社でも、すでに数千枚のチケットを購入しました。
社員や互助会の会員様などに観ていただきたいと思っています。
ちなみに、わたしは今、『ブッダの考え方』(中経の文庫)という本を書いています。今年の10月刊行の予定ですが、世界一わかりやすい仏教のガイドブックをめざしていますので、お楽しみに! 
映画で、出版で、東日本大震災後、魂の平安を求める多くの日本人にブッダの言葉が届くことを願っています。大震災後の日本に巻き起これ、ブッダ旋風!
2011.6.1