2011
04
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「東日本大震災発生

 今こそ、隣人の時代へ」

東日本大震災と「人間の尊厳」

 3月11日、日本に未曾有の大災害が発生しました。いわゆる「東日本大震災」です。じつに、わが国の観測史上最大となるマグニチュード9.0の巨大地震でした。
 毎日、死者・行方不明者の数が増えてゆく一方です。大地震と大津波で、今の東北はまさに「黄泉の国」となっています。津波に流されたため、遺体も思うように見つかっておらず、見つかった大量の遺体もまとめて土葬にされている現状です。そこに現実として人間の亡骸が存在しても、どこの誰だかわかりません。その身元不明の遺体をそのまま地中に埋めてしまうのです。「人間の尊厳」というものを考えたとき、やりきれない思いがします。葬儀という営みが人間の尊厳に直結していることを再認識しました。

マナー世界一

 大地震に大津波に原発の爆発・・・最大の国難に悲観的な考えに走りがちになってしまいますが、いま、世界各国から日本に対する賞賛の声が出ています。
 中国で日本人のマナーの良さが絶賛され、「マナー世界一」という声まで出ているというのです。中国は日本と同じく地震多発国であり、東日本大震災への関心も特に高いのです。12日付の中国政府系国際情報紙「環球時報」は、大震災を一面で報じました。その見出しは、「日本人の冷静さに世界が感心」というものでした。さらに、12日より中国のインターネットには、非常事態にもかかわらず日本人は「冷静で礼儀正しい」との書き込みなどが相次いでいるそうです。

江戸しぐさのDNA

 特に、11日の夜に「ツイッター」の中国版である「微博」に投稿された写真が衝撃的でした。それは、地震のためにJR新橋駅の構内で足止めされた通勤客の写真です。階段で通行の妨げにならないよう両脇に座り、中央に通路を確保している姿でした。
 この写真には、「(こうしたマナーの良さは)教育の結果。(日中の順位が逆転した)国内総生産(GDP)の規模だけで得られるものではない」との説明が付けられました。
 通行人のために通路を確保し、多くの人々が規律正しく座っていた姿は「江戸しぐさ」そのものだと思います。江戸時代、江戸に住む庶民の間で行われていた思いやりの作法。東京には、まだ「江戸しぐさ」が残っていたのです。

世界中が日本を称賛

 この「つぶやき」を見た中国の人々は感動し、一日で7万回も転載され、それは現在も続いています。人々は、「中国は50年後でも実現できない」「とても感動的」「われわれも学ぶべきだ」などのコメントを寄せています。
 中国だけでなくインドでも、日本人の冷静な対応が称賛されました。13日付のインド紙「ビジネスライン」が、日本への出張中に被災したインド人技術者が日本人の冷静な対応を称賛する声を紹介しました。記事には、「天井や壁が完全に崩れ落ちるような災害の中でも、すべての規律が保たれていた」と書かれていました。
 イギリスのBBCでも、「地球最悪の地震が世界で一番準備され訓練された国を襲った。その力や政府が試される。犠牲は出たが他の国ではこんなに正しい行動はとれないだろう。日本人は文化的に感情を抑制する力がある。」とのコメントを放送しました。

隣人の時代

 こんな中、わたしは『隣人の時代』(三五館)を上梓しました。この大地震によって、日本に「隣人の時代」が呼び込まれるかもしれません。阪神淡路大震災のときに、日本に本格的なボランティアが根づきました。あのときが日本における「隣人の時代」の夜明けだったわけです。
 今また、多くの方々が隣人の助けを必要としています。「無縁社会」や「孤族の国」などと言っている場合ではない。それでは困っている人を救えませんし、日本は存続していけないのです。
 被災地で救援に尽力する人たちをはじめ、多くの日本人が誰かを助けようと必死になっています。
 日本中で義援金が募集され、世界各国からも援助隊が来てくれました。ツイッターでは、海外から「プレイ・フォー・ジャパン(日本のために祈ろう)」という被災者の無事を祈るツイートが世界中から寄せられています。

助け合いは人類の本能だ!

 日本だけでなく、世界中の人が隣人愛を発揮しているのです。
 隣人愛の発揮は、国内だけではありません。先月の大地震で犠牲者多数を出したニュージーランドをはじめ、100近くの国々からの援助隊が日本にやって来ました。
 今度の地震によって、わたしたちの社会は明らかにその方向性を変えるでしょう。大地震は「無縁社会」や「孤族の国」を崩壊させ、大津波は「人はひとりで死ぬ」や「葬式は、要らない」などの妄言も流し去りました。
 なぜ、世界中の人々は隣人愛を発揮するのでしょうか。その答えは簡単です。よく、「人」という字は互いが支えあってできていると言われます。互いが支え合い、助け合うことは、じつは人類の本能なのです。
 「隣人愛」とは「相互扶助」につながり、それは互助会の精神そのものです。わたしたちも被災者のために何ができるかを考えましょう。

 地は揺れて津波来たりて人死ぬる
   されどこれより隣人(となりびと)の世  庸軒