2011
02
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「思いやりの時代がはじまる

 人情あふれる人間集団をめざそう!」

無縁社会と孤族

 昨年の1月31日にNHKスペシャル「無縁社会〜"無縁死"三万二千人の衝撃〜」が放映され、大変な話題となりました。「無縁社会」という言葉は昨年の流行語にも選ばれています。
 さらに、昨年12月には朝日新聞が「孤族の国」という連載をスタートしました。朝日では、連載開始にあたっての宣言文で「血縁や地縁という最後のセーフティネット、安全網のない生活は、時にもろい」と述べつつ、「個を求め、孤に向き合う。そんな私たちのことを『孤族』と呼びたい。家族から、『孤族』へ、新しい生き方と社会の仕組みを求めてさまよう、この国」と書いています。「孤族」とは本当に嫌な言葉ですね。

「血縁」と「地縁」の再生を

 いま、「血縁や地縁に代わる新しい縁が必要」という言説が多いのが気になります。ネットや趣味でつながる縁に注目していくことは大いに結構なことです。
 でも、人間とは、どこまでも「血縁」と「地縁」の中で生きている存在なのです。
 何よりも最優先すべきは、日本人における「血縁」と「地縁」の再生です。くだんの朝日宣言文には、「血縁や地縁という最後のセーフティネット、安全網のない生活は、時にもろい」と書かれています。
 セーフティネットや安全網というのは破損した状態のままで放置しておいては絶対にいけません。どんなに修復が困難であろうとも、必ず修復しなければならないものです。

豪雪と人情のお年玉
 NHK「無縁社会」にしろ、朝日「孤族の国」にしろ、絶望しか描かれていないのが気になります。そこには希望というものが感じられません。
 でも、朝日の1月9日朝刊の一面トップは素晴らしかったです。「豪雪 人情のお年玉」という記事でした。
 年末年始の大雪で国道9号では1000台の車が立ち往生しました。多くの人々が、寒さをこらえ、トイレを我慢し、お腹を空かせていました。
 それを国道9号沿いにある鳥取県の琴浦町の人々が総出でサポートしたのです。自宅や仕事場のトイレを開放し、トイレの場所を示す看板を設置し、公民館でおにぎりを握って、空腹をかかえた人々に配ったのです。地元の人は「琴浦はそんな土地柄です」と言っているそうです。日本海で難破した船が漂着するたびに、地元の人が総出で船員を助けた伝統が生きているそうです。

タイガーマスク運動

 もう一つ、今年は1月から心あたたまるニュースがありました。いわゆる「タイガーマスク運動」です。
 児童養護施設の子どもたちへのランドセル、文房具、オモチャなどのプレゼント行為が全国的な拡がりを見せましたが、送り主は「伊達直人」と名乗っていました。
 「伊達直人」とは、プロレス・マンガの名作「タイガーマスク」の主人公の名前です。彼は自身が育った児童養護施設の「ちびっこハウス」の子どもたちにさまざまなプレゼントを贈るのです。
 多くの人々が善意の寄付活動にあたって、本名を明かしませんでした。匿名ブログなどで仮面をかぶったまま他人の誹謗中傷をする行為は卑怯千万ですが、善行において匿名で通すのは日本人の美点かもしれません。

クレヨンと赤い花

 児童養護施設といえば、わが社も毎年、11月18日の創立記念日に文房具やお菓子などを寄贈させていただいています。
 児童養護施設では、文房具なども不足しがちなようです。あるとき、クレヨンのセットをお配りしたことがあるのですが、しばらくして社長であるわたし宛にお礼状と一枚の絵が届きました。その絵には大きな赤い花が描かれていました。手紙を読むと、そこには次のような内容が書かれていました。
 「今までクレヨンのセットが園に1つしかなかったので、赤などはすぐ減ってしまって使えませんでした。私は赤い花の絵が描きたかったのですが、描くことができませんでした。サンレーさんが新しいクレヨンをたくさんプレゼントしてくれたので、やっと描くことができます。最初に描いた絵は、社長さんにプレゼントします」
 わたしは、この手紙と赤い花の絵を前にして涙がとまりませんでした。

「こころ」のつながり

 このモノ余りの世の中で、このお子さんたちはなんとモノを大切にし、また感謝の気持ちというものを持っているのだろうと思って感動しました。わたしは、このお子さんたちを育てている園の先生たちに心から尊敬の念を抱きました。
 また、自分以外の誰かの「こころ」と自分の「こころ」がつながったことに感動しました。日本中に出現した多くの伊達直人さんたちも、きっと誰からの「こころ」とつながりたかったのでしょう。
 他人の「こころ」に思いをやること、これを「思いやり」というのです。琴浦の出来事やタイガーマスク運動では「人情」という言葉も復活しました。
 今年は、「思いやり」や「人情」の時代の幕開けではないでしょうか。それは「無縁社会」や「孤族」の反動かもしれませんね。わたしたちは、人情あふれる人間集団として、多くの方々の「こころ」をつなげたいものです。
 わが社のミッションは「人間尊重」です。今年こそ、人間が尊重される社会づくりの幕開けだと思っています。

 無縁だの孤族だのとは言うなかれ
     こころつなぐは われらの役目  庸軒