第10回
一条真也
『かたみ歌』朱川湊人著(新潮文庫)
本書は、最近ちょっとしたブームになっている短編集です。収録されている「栞の恋」という作品が、先日、フジテレビ系列で放映された「世にも奇妙な物語20周年スペシャル・秋~人気作家競演編~」でドラマ化されたからです。主演は、堀北真希でした。
著者は、1963年(昭和38年)生まれとのことで、わたしと同い年です。彼の描く小説世界は、わたしの好むホラーやファンタジーの分野だとういうので、非常に楽しみに読みはじめました。
物語の舞台は、今から30年から40年ほど前の東京の下町にあるアカシア商店街。この町にはさまざまな店が軒を並べています。芥川龍之介似の主人がいる古書店、看板娘がGSのタイガースに夢中な酒店、路地裏のスナック、恐ろしい殺人事件が起こったラーメン店、そして西田佐知子の「アカシアの雨がやむとき」ばかりを流し続けるレコード店。
そのアカシア商店街とその周辺の町に住む人々にふりかかった7つの不思議な出来事を描く、ノスタルジックホラー連作集が本書です。けっこう怖い話なのですが、たまらなく優しい気分になってきます。それは、本書の時代背景が昭和40年代だからかもしれません。まさにわたしが小学生だった時代と完全にマッチするのです。
本書に出てくる7つの物語には、いずれも死者と生者との交流が描かれています。死者は消滅したのではなく、ただ「あの世」で暮らしているだけなのであり、「あの世」はわたしたちのすぐ身近にあるのです。本書を読むと、心に残る故人の顔がいくつも浮かんできて、必ず泣けます。