2010
12
株式会社サンレー

代表取締役社長

佐久間 庸和

「礼能力を身につけ、

 思いやりのある人になろう!」

人間関係の贅沢

 先日、東京で開催された自殺のない社会を考えるフォーラムで、「隣人祭り」について発表してきました。
 日本人の自殺率上昇が問題になっています。その最大の原因も人間関係にありそうです。また、会社員が会社を辞める理由としては、さまざまな問題がありますが、そのトップは圧倒的に人間関係の悩みだそうです。
 フランスの作家サン=テグジュペリは、「真の贅沢というものは、ただ一つしかない、それは人間関係の贅沢だ」と、『人間の土地』という本で述べています。
 飛行機の操縦士だった彼は、サハラ砂漠に墜落し、水もない状態で何日も砂漠をさまようという極限状態を経験しています。そこから、水が生命の源であることを悟り、『星の王子さま』に「水は心にもよい」という有名な言葉を登場させたのです。

水と思いやり

 わたしは、『世界をつくった八大聖人』(PHP新書)という本を書きましたが、その中で、ブッダ、孔子、老子、ソクラテス、モーセ、イエス、ムハンマド、聖徳太子といった偉大な聖人たちを「人類の教師たち」と名づけました。
 彼らの生涯や教えを紹介するとともに、八人の共通思想のようなものを示しました。その最大のものは「水を大切にすること」、次が「思いやりを大切にすること」でした。「思いやり」というのは、他者に心をかけること、つまり、キリスト教の「愛」であり、仏教の「慈悲」であり、儒教の「仁」です。そして、「花には水を、妻には愛を」というコピーがありましたが、水と愛の本質は同じではないかと、わたしは書きました。
 思いやりが水なら、「隣人祭り」や礼法や江戸しぐさなどは、いずれも早く芽を出して大きく草木を育てる養分です。そして、その草木の名前は「人間関係の木」というのです。
 現在の日本では、うまく人間関係の木が育たないためか、残念なことに離婚と自殺の数が急激に増えています。わが社は「結婚」と「死」に関わる冠婚葬祭業者として、日本人の離婚と自殺の数を少しでも減らし、無縁社会を乗り越えたいと心から願っています。そして、さまざまな活動を行なっています。

幸福の測り方

 前にもお話しましたが、「GNH」という言葉があります。グロス・ナショナル・ハピネス、つまり、「国民総幸福量」という意味です。ブータンの前国王が提唱した国民全体の幸福度を示す尺度です。「GNP(国民総生産)」で示されるような「物質的ゆたかさ」を求めるのではなく、「精神的ゆたかさ」、すなわち「幸福」を求めるべきであるという考えから生まれたものです。
 ブータンは経済的、物質的には世界でも最も貧しい国の一つですが、国民のなんと九割以上が「自分は幸福だ」と感じているといいます。世界で唯一のチベット仏教を国教とする国であり、葬儀を中心とした宗教儀礼が非常に盛んなことで知られます。そのせいか、ブータンの人々は良い人間関係に恵まれているようです。人間関係の良好さが幸福感に直結することはよく理解できます。まさに、ゆたかな人間関係は最高の贅沢なのですね。

スピリチュアリティとは何か

 わたしは、どんなにお金や社会的地位や健康に恵まれていても、人間関係に恵まれなければ、その人はやはり不幸だと思います。
 世界は深刻な問題にあふれています。まるでハートレス・ソサエティという「心なき社会」に向かっているようにも見えます。わたしたちは、それをハートフル・ソサエティという「心ゆたかな社会」へと進路変更させなければなりません。
 かつて、フランスの文化相も務めた作家のアンドレ・マルローは「21世紀はスピリチュアリティの時代である」と述べました。世界中の多くの識者もその見方に賛同しています。
 「スピリチュアリティ」とは「精神性」とでも訳すべきでしょうが、最近の日本では「スピリチュアル」というよく似た言葉が流行しています。その言葉も、本来は「精神的な」といったふうな意味なのでしょうが、どうも「スピリチュアルカウンセラー」などと自称する一部の人間の影響で、霊能力と関連づけられることがほとんどです。

礼能力の時代

 わたしは、心ゆたかな社会とは、決して霊能力に関心が集まる社会ではないと思います。それどころか、安易なオカルト・ブームは、健全な社会にとってきわめて危険であるとさえ思っています。孔子が「怪力乱神を語らず」と述べたことを忘れてはなりません。
 本当に大切なのは、「霊能力」ではなくて、「礼能力」ではないでしょうか。これは、宗教哲学者の鎌田東二氏の造語ですが、他者を大切に思う能力、つまり、仁や慈悲や愛の力のことです。わが社の大ミッションである「人間尊重」とは「礼」のことです。「礼」は他者を尊重する心を形に表わすことです。それは、ホスピタリティでもあります。
 お客様はもちろん、上司でも同僚でも部下でも、そして家族や親族や隣人でも、相手への「思いやり」の心を持ち、それを形にしたいものです。わが社が発展するのも、みなさんが幸福な人生を歩むのも、すべては、みなさんの礼能力にかかっているのです。
 この一年間、十二の力について語ってきました。これからも「サンレー十二力」を忘れず、実践していただきたいと思います。

 思いやり形にできる者こそが
    心ゆたかな世界をひらく  庸軒