14
一条真也
「自殺のない社会〜支えあい、安心して暮らせる社会に」

 

こんにちは、一条真也です。
水嶋ヒロの処女作『KAGEROU』がポプラ社小説大賞を受賞ました。
本名の齋藤智裕名義で執筆し、ペンネームは「齋藤智」としたそうです。 芸能人であることを隠し、職業欄も無記名で応募したとか。 ということは、今回の受賞は完全に実力によるものです。
すごいですね!
水嶋ヒロの処女作のテーマは、ずばり「命」です。
彼は、3万人以上という日本人の自殺者の多さにとても驚いたそうです。
そして、なんとか自殺を少しでも減らしたいという思いで『KAGEROU』を書いたとか。
「自殺」といえば、11月5日に東京の赤坂にある日本財団大会議室で、自殺に関する公開フォーラムが開催されました。
名前は、「みんなが安心して暮らせる『シェルター』を考える公開フォーラム」です。
「自殺のない社会をめざして」という副題がついています。
その名の通り、自殺のない社会を考えるための大規模なフォーラムです。
わたしも、パネラーの一人として参加しました。
7月の講演会での「孤独死」に続き、今回は「自殺」についても発言しました。
フォーラムの主催は、"自殺のない社会づくりネットワーク・ささえあい"という団体です。
代表の茂幸雄さんの挨拶からフォーラムがスタートしました。
茂さんは、福井県・東尋坊で自殺防止活動をされています。
これまで、全国から東尋坊を訪れた291人の自殺未遂者の話を聞いてきました。
そして、この人々が口を揃えて言っていた言葉は次のような叫び声でした。 
「しばらくの間で良いんです、『心の整理』ができるまでの間、誰か『安らぐ』場所を提供してくれませんか?」 「今、苦しいんです! この悩み事を解決するまで、誰か寄り添ってくれませんか?」 
「わたしの悩み事を聞いてください。そして、一人歩きできるまでの間で良いんです。誰か、わたしを支えてくれませんか?」
茂さんによれば、この人々の求めている「相談に乗る」「支える」「一時避難所」を提供することにより、多くの人々の命が救われている現実があるそうです。
会場には多くの方々が集まり、大会議室がいっぱいになりました。
取材のマスコミ各社もたくさん来ていました。
第1部は、「自殺のない社会づくりに向けて何ができるか」を6人のレポーターが発表。 
茂幸雄(心に響く文集・編集局理事長)、篠原鋭一(自殺防止ネットワーク風理事長)、森崎雅好(高野山大学助教授、雅宝庵主)、井内清満(ユース・サポート・センター・友懇塾理事長)、菊地謙(自由と生存の家実行委員会)、そして、わたしです。 
わたし以外のレポーターの方々の顔ぶれを見ても、わが国の自殺問題に関する第一人者ばかりです。みなさんのお話を聞いて、わたしも大変勉強になりました。
そして、現在起こっている問題の深刻さに、だんだん、わたしの顔が険しくなっていきました。 わたしの話す順番が来ました。まず、「死は決して不幸な出来事ではない!」と大声で言いました。
すると、最前列に座っている方々が目を見開いてビックリされていました。 
その後で、「でも、自殺は違う! 自殺は不幸な死に方です」と言いました。 
わたしは、京都大学こころの未来研究センターの共同研究員を務めていた頃、日本人の「こころの未来」のためには「うつ」と「自殺」の予防が必要であると考え、自分のテーマとして取り組んでいました。本業の冠婚葬祭の延長として取り組んでいる「グリーフケア」も、つまるところ、「うつ」と「自殺」の予防に直結しています。
また、「自殺」とともに日本人の死に方の大問題として「孤独死」があります。
わたしは「死は最大の平等である」と述べた後、自殺、孤独死、無縁死と、どうも最近の日本では死に方が不平等になってきていると言いました。 それらの不平等な死に方をなくすために生まれたものこそ、「隣人祭り」なのです。
わたしは、また、以下のような話をしました。
わたしたちは一人では生きていけません。誰かと一緒に暮らさなければなりません。
では、誰とともに暮らすのか。まずは、家族であり、それから隣人です。
考えてみれば、「家族」とは最大の「隣人」かもしれません。
現代人はさまざまなストレスで不安な心を抱えて生きています。
ちょうど、空中に漂う凧のようなものです。そして、わたしは凧が最も安定して空に浮かぶためには縦糸と横糸が必要ではないかと思います。
縦糸とは時間軸で自分を支えてくれるもの、すなわち「先祖」です。この縦糸を「血縁」と呼びます。
また、横糸とは空間軸から支えてくれる「隣人」です。この横糸を「地縁」と呼ぶのです。
この縦横の二つの糸があれば、安定して宙に漂っていられる、すなわち心安らかに生きていられる。
これこそ、人間にとっての「幸福」の正体ではないでしょうか。 
そして、その「幸福」を得る方法こそが「隣人祭り」なのだと訴えました。
いたずらに「無縁社会」の不安を煽るだけでは、2012年に人類が滅亡するという「マヤの予言」と何ら変わりません。それよりも、わたしたちは「有縁社会」づくりの具体的な方法を考え、かつ実践していかなければなりません。 自殺、うつ、グリーフケア、葬儀、孤独死、高齢者の所在不明、生涯非婚、墓、無縁社会、隣人祭り・・・・・すべては、密接に関わり合っているのです。 
今回、人間尊重思想を広める「天下布礼」の一環として、わたしもパネラーを務めさせていただきました。日本人の自殺者が1人でも少なくなりますように・・・
2010.11.15