第7回
一条真也
『告白』湊かなえ著(双葉文庫)
松たか子が主演し、大ヒットした日本映画の原作小説です。
幼いわが子を校内で亡くした中学校の女教師が辞職することになりました。彼女は、最後のホームルームで、「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」と告白します。
ここから、犯人の級友、犯人、犯人の家族と、語り手が次々と変わり、彼らはそれぞれの告白をしていきます。登場人物たちのモノローグによって物語を構成するという手法は、かの芥川龍之介が短編「藪の中」で試みていることです。その「藪の中」を映画化した作品が、カンヌ映画祭でグランプリを受賞した黒澤明監督の名作「羅生門」ですね。
すなわち、湊かなえの小説『告白』は現代の「藪の中」であり、中島哲也の映画「告白」は現代の「羅生門」なのだと気づきました。
わたしは先に映画を観たのですが、ものすごく後味が悪くて、「なぜ、こんなアンモラルな物語を考えるのだろう」と、著者に対して良いイメージを抱きませんでした。でも、本書をしっかり読んでみて、それが完全な誤解であったことに気づきました。逆に、この著者ほど正義感の強い人はいないのではないでしょうか。
著者は「悪」を憎む人であり、「卑劣」を憎む人です。そして、根本において人間の良心というものを信じている人です。さらには、人間が間違った方向に行かないための防波堤として「法」の必要性を痛感している人です。
わたしは、著者の考え方を全面的に支持します。『告白』は、現代日本人に「倫理」を問う問題作であり、必読書だと確信します。