第6回
一条真也
『アホの壁』筒井康隆著(新潮文庫)
まずは、100号おめでとうございます!今回の本は、『アホの壁』です。「アホの壁」とは何か。言わずと知れた日本SF界の御大である著者によれば、「人それぞれの、良識とアホの間に立ちはだかる壁のことである。文化的であり文明人である筈の現代人が、なぜ簡単に壁を乗り越えてアホの側に行ってしまうのか。人に良識を忘れさせアホの壁を乗り越えさせるものは何か。小生はそれを考えてみようと思ったのだ」そうです。
本書では、全部で5つの章に分けて、「アホの壁」を論じています。すなわち、「人はなぜアホなことを言うのか」「人はなぜアホなことをするのか」「人はなぜアホな喧嘩をするのか」「人はなぜアホな計画を立てるか」「人はなぜアホな戦争をするのか」といった具合です。
その中身ですが、けっしてアホな内容ではなく、いたって真面目です。
フロイトの理論などをバンバン紹介しているので、驚きました。なんだか心理学の啓蒙書みたいで、けっこう高度な内容になっています。
さまざまな「アホ」について情熱的に語ってくれる著者ですが、本書の最後には、「アホを貶めるようなことをさんざん書いてきたが、ここへきてアホが愛おしくなってきた」と書いています。そんなアホな!(笑)
著者は、もしこれらのアホがいなかったら、世の中が寒々しくなるのではないかというのです。アホとは、「良識ある人々の反面教師」というより「社会の潤滑油」ではないかというのです
とにかく、「アホ」という単語がこれほど頻出する本は見たことがありません。本書は、前代未聞の「アホ」についての本です。面白いです!